北クリミア運河

北クリミア運河：歴史、構造、そして地政学的転換点

北クリミア運河は、ウクライナ南部のヘルソン州とクリミア半島を結ぶ、灌漑と給水を目的とした大規模な土地改良運河です。ソビエト連邦時代に建設され、農業生産に不可欠な役割を果たしてきましたが、近年の政治的状況の変化により、その重要性が大きく変動しています。

運河の誕生と発展

1957年、クリミアがウクライナに移管された直後、運河建設の準備が始まりました。1961年から1971年にかけて、3段階に分けて大規模な工事が行われ、コムソモール（ソ連共産党青年組織）のメンバーを中心に、約1万人のボランティア労働者が建設に携わりました。

運河は、ドニエプル川からカホフカ貯水池の水を引き込み、タヴリスク市から南東方向に伸びています。全長402.6kmの主運河には7つの貯水池があり、水は重力を利用してジャンコイまで流れ、そこからポンプで100m以上の高さまで汲み上げられ、さらに下流へと送られます。クリミア半島内では、ラズドリノエ水路、アゾフ水路など、多数の支線が分岐しており、シンフェロポリ市などにも水が供給されています。

運河の建設は、19世紀に植物学者クリスティアン・フォン・ステーヴェンによって提唱されましたが、最終的な決定は第二次世界大戦後の1950年に行われました。ソビエト連邦は、この運河を共産主義大建設計画の一つと位置づけ、記念切手も発行しました。

2014年以降の状況

2014年、ロシアによるクリミア併合後、ウクライナ政府は未払い債務を理由に、クリミアへの給水量を大幅に削減しました。この措置は、半島内の農業生産に大きな打撃を与え、2014年には収穫量が大幅に減少しました。

クリミア半島では、新たな水源として、運河に接続された貯水池が建設されました。これにより、ケルチ半島や東海岸のコミュニティへの灌漑と給水の回復が目指されました。ロシアの公式統計では、農業生産が回復したとされていますが、実際には、大規模な補助金による農業機械の増加が背景にあると指摘されています。また、耕作面積の縮小や、水不足による給水制限などの問題も指摘されています。

2022年ロシアの侵攻と運河の現状

2022年2月24日、ロシアによるウクライナ侵攻が開始されると、ロシア軍はクリミアから進軍し、北クリミア運河を占拠しました。クリミアの当局者は、運河の復旧と給水再開を指示しました。その後、ロシア軍がダムを爆破し、給水は再開されました。しかし、運河の取水元であるカホフカ貯水池とそのダムは、ロシアとウクライナの両方にとって戦略的な重要性を増しました。

2023年6月6日には、カホフカダムが決壊し、運河の取水に深刻な影響が生じる可能性が出てきました。運河の将来は、両国間の紛争と密接に結びついており、今後の動向が注目されます。

運河の支線と貯水池

北クリミア運河には、以下のような支線や貯水池があります。

支線

ヘルソン州：カホフカ運河、Krasnoznamensky運河
クリミア：ラズドリノエ運河、アゾフライス運河、合流運河、サキ運河、Krasnohvardiyske配水路

貯水池

Mizhhirne
Feodosiyske
Frontove
Leninske
Samarlynske
Starokrymske
* Stantsiyne（Kerchenske）

これらの支線や貯水池を通じて、広大な地域に水が供給されています。

結論

北クリミア運河は、単なる灌漑施設ではなく、ソビエト連邦の遺産、そして近年の政治的対立の象徴でもあります。運河の制御は、クリミア半島の農業生産と住民の生活に直接影響するため、その動向は地政学的な観点からも非常に重要です。カホフカダムの決壊によって運河の将来はさらに不確実性を増しており、今後の展開が注目されます。

もう一度検索