北京の春

北京の春：中国民主化運動の黎明

「北京の春」は、1978年秋頃から1979年3月29日まで、北京市西単の「民主の壁」を中心に展開された中国民主化運動を指します。この運動は、大字報（壁新聞）を通じて、中国共産党の独裁体制や社会主義体制の問題点を批判し、民主化を求める人々の声が可視化された出来事でした。

運動の背景

1976年4月5日に発生した第1次天安門事件を契機として、中国国内では民主化への機運が高まっていました。その中で、魏京生が発表した「第五の現代化」は、この運動の大きな原動力となりました。

「第五の現代化」の提唱

魏京生は「第五の現代化」の中で、中国共産党の独裁を批判し、民主主義の必要性を訴えました。当時の中国では、「四つの近代化」（農業、工業、国防、科学技術の近代化）が提唱されていましたが、魏はこれに加え、「政治の近代化＝民主化」の必要性を主張したのです。

「民主の壁」運動の展開

1978年秋、北京の西単に「民主の壁」が出現し、市民は大字報を通じて自由に意見を発表しました。この運動は、1978年12月の中国共産党第十一期中央委員会第三回全体会議（三中全会）にも影響を与え、文化大革命の清算や改革開放路線の決定を後押ししました。

「北京の春」の命名

1979年1月には、「民主の壁」に参加していた市民たちが自費で雑誌を発行し始めました。その一つである厳家祺の雑誌が、1968年の「プラハの春」にちなんで「北京の春」と名付けられました。以後、1978年秋以降に盛り上がった「民主の壁」運動は「北京の春」と呼ばれるようになりました。

傅月華逮捕事件と運動の激化

1979年1月、女性活動家の傅月華が逮捕されたことをきっかけに、釈放を求める運動が展開されました。この事件は、政府による言論統制に対する不満をさらに高めました。

政府による弾圧と運動の終焉

「民主の壁」運動は、当初は華国鋒を追い詰めるために鄧小平に利用された側面もありましたが、次第に政府にとって邪魔な存在となっていきました。1979年3月29日、北京市党委員会は、集会やデモ、大字報の掲示などを規制する通告を発布し、魏京生は逮捕されました。翌日、鄧小平は「四つの基本原則」（社会主義の道、プロレタリア独裁、共産党による指導、マルクス・レーニン主義と毛沢東思想）を堅持すると宣言し、これにより「北京の春」運動は終息しました。

運動後の弾圧

魏京生は、反革命罪で15年の懲役刑を宣告されました。その後、大字報を含む「四大民主」は公民権の規定から削除され、政府による言論統制が強化されました。

運動の意義と影響

「北京の春」は、短期間で終息したものの、その後の中国民主化運動に大きな影響を与えました。この運動を通じて、中国の人々は自由と民主主義の重要性を再認識し、その後の民主化運動の原動力となりました。

参考文献

厳家祺・高皋著、辻康吾訳『文化大革命十年史』岩波書店、1996年。

関連項目

中国民主化運動
四五天安門事件
六四天安門事件
プラハの春
春 (政治用語)

外部リンク

魏京生基金会
第五个现代化：民主及其他 （『第五の近代化』原文：中国語）
* THE FIFTH MODERNIZATION（上記の英訳）

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