北条九代記

『北条九代記』（ほうじょうくだいき）は、江戸時代初期の延宝3年（1675年）に刊行された歴史書であり、全12巻で構成されています。作者は浅井了意とされていますが、確証はありません。別名として『鎌倉北条九代記』または『鎌倉九代記』とも呼ばれています。

本書は、鎌倉幕府の執権として権勢を振るった北条氏、その中でも特に北条時政から北条貞時に至るまでの得宗家9代の事跡を、物語形式で記述したものです。単なる歴史的事実の羅列ではなく、各時代の出来事や人物に対する評価、教訓などが盛り込まれています。

『北条九代記』の記述は、『吾妻鏡』、『保暦間記』、『太平記』といった既存の歴史書を参考にしています。しかし、単なる引用や要約に留まらず、独自の解釈や評価が加えられている点が重要です。特に、儒教的な徳目を基準として、北条氏の政権の推移を天命思想によって説明しようとする点に、本書の特色が見られます。

天命思想とは、為政者の徳によって天がその地位を与える、あるいは奪うという考え方です。本書では、北条氏の各当主の治世を、その徳の有無によって評価し、政権の盛衰を天命によるものとして解釈しています。このような視点は、当時の社会における道徳観や政治観を反映していると言えるでしょう。

『北条九代記』は、単なる歴史書としてだけでなく、江戸時代の思想や文化を理解するための資料としても価値があります。浅井了意の思想や、当時の歴史観、道徳観を知る上で重要な手がかりとなります。

なお、『北条九代記』は『校註国文叢書』に収録されており、比較的容易に入手することができます。歴史研究者だけでなく、一般の読者にとっても、鎌倉時代の歴史や文化に触れるための良い機会となるでしょう。

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