北条五代記

『北条五代記』について

『北条五代記』は、戦国時代から江戸時代初期にかけて活躍した後北条氏の歴史を描いた仮名草子・軍記物語です。著者は三浦浄心とされていますが、書中には「出口五郎左衛門尉茂正」や「三浦屋浄心」といった名が見られ、後北条氏の旧臣であったという経歴も記されています。

本書は、寛永18年（1641年）に最初の版本が出版され、その後、万治2年（1659年）に改訂版が刊行されました。万治版は広く流布しており、現存数も多いのが特徴です。両版は全10巻で構成されていますが、内容にはいくつかの改変が見られます。

成立と著者

著者の三浦浄心は、後北条氏の旧臣であり、小田原籠城を体験した人物です。序文には、旧友が『見聞集』という書物から後北条氏に関する記事を抄録したとありますが、これは擬態で、実際は全編が浄心の自著であると考えられています。作中には、慶長19年（1614年）という記述がありますが、元和・寛永年間の出来事も記されているため、実際の成立は寛永版刊行の少し前、寛永後期と推測されています。

万治版では、著者名に関する記述が削除されていますが、寛永版には著者の出自が詳しく記されており、江戸へ上る前は「出口五郎左衛門尉茂正」と名乗っていたことがわかります。この記述から、著者が三浦浄心であることが確認できます。

内容と特徴

『北条五代記』は、後北条氏の歴史を中心に、戦国時代の武将や合戦の様子、当時の人々の生活などを描いています。特に、北条氏康から氏直までの時代を詳細に記述しており、作者自身の体験談も含まれています。また、『吾妻鏡』や『太平記』などの古典からの引用も多く、歴史的資料としての価値も高いとされています。また先行して刊行されていた『甲陽軍鑑』を意識し、参照して書かれている点も特徴です。

本書は、単なる歴史物語にとどまらず、当時の社会情勢や人々の感情を生き生きと描いており、読者に当時の様子を想像させる力を持っています。また、作者の視点が加わることで、歴史的事実を多角的に捉えることができる点も魅力です。

諸本について

『北条五代記』には、寛永版、万治版、元禄版などの複数の版が存在します。万治版は、寛永版を基に浄心の死後に刊行されたもので、絵入りで話題が整理されています。元禄版は、古浄瑠璃の台本として作られたものです。

寛永版には、筑波大学図書館、米沢市立図書館、国学院大学図書館、東京大学総合図書館など、複数の図書館や個人が所蔵するものが存在します。これらの諸本は、内容や状態が異なるため、研究者にとっては貴重な資料となっています。

研究と翻刻

『北条五代記』は、多くの研究者によって研究されており、翻刻や現代語訳も刊行されています。近藤瓶城、橋本実、萩原龍夫、矢代和夫、柳沢昌紀など、多くの研究者が本書の研究に貢献しています。

これらの研究によって、『北条五代記』の成立過程や内容、歴史的背景などが明らかになってきています。また、翻刻や現代語訳によって、より多くの人々が本書に触れる機会が増え、その魅力が広く知られるようになっています。

まとめ

『北条五代記』は、後北条氏の歴史を描いた重要な軍記物語であり、当時の社会や文化を知る上で貴重な資料です。著者の三浦浄心の視点から描かれる物語は、歴史の多面性を教えてくれます。また、様々な諸本が存在することから、研究の対象としても興味深い作品です。今後も研究が進むことで、新たな発見があることが期待されます。

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