古浄瑠璃

古浄瑠璃：近松浄瑠璃以前の時代

近松門左衛門、初代竹本義太夫といった名だたる人物が登場する以前、江戸時代初期の人形浄瑠璃は、現在とは異なる様相を呈していました。一般に、初代竹本義太夫が活躍する前の浄瑠璃を「古浄瑠璃」と呼びます。慶長から貞享年間（1596～1684）頃をその全盛期と捉えるのが一般的です。

古浄瑠璃は、近松門左衛門の革新的な作品『出世景清』（1686年）が登場するまでの人形芝居を指します。近松作品がもたらした演劇性の高さ、洗練された表現は、それまでの古浄瑠璃とは一線を画すものでした。その結果、『出世景清』以降の浄瑠璃は「新浄瑠璃」と呼ばれ、古浄瑠璃とは明確に区別されるようになりました。

古浄瑠璃の特徴は、素朴ながらも力強い表現と、宗教的な色彩の濃さにあります。近松浄瑠璃のような洗練された技巧や複雑な構成は見られず、より直接的で感情に訴えかける表現が用いられていたと考えられます。また、物語の多くが宗教的な題材を取り上げていたことも、古浄瑠璃の大きな特徴と言えるでしょう。庶民の人々の信仰や生活に深く結びついた、生きた宗教表現として古浄瑠璃は受け入れられていました。

近松浄瑠璃の隆盛によって古浄瑠璃は次第に衰退していきましたが、現代においても多くの古浄瑠璃の台本（正本）が発見され、翻刻・出版されています。これらの貴重な資料から、当時の庶民文化や芸能の様子を垣間見ることができます。現存する資料は、古浄瑠璃が単なる過去の遺物ではなく、近世浄瑠璃の礎を築いた重要な存在であったことを示しています。

古浄瑠璃の芸風は大きく分けて「軟派」と「硬派」の二つに分類されます。軟派は、繊細で抒情的な表現を特徴とし、硬派は、力強くダイナミックな表現を特徴としていました。また、古浄瑠璃の時代には、太夫が人形遣いを兼ねることも珍しくありませんでした。これは、現代の浄瑠璃とは異なる、演劇における役割分担を示しています。

浄瑠璃音楽の歴史を紐解くと、岩船検校が従来の浄瑠璃に節をつけたことが大きな転換点となりました。その後、滝野検校と澤住検校という二人の当道座の検校（一説には勾当）が、琵琶を用いた演奏を三味線を用いた演奏へと変革させました。さらに薩摩浄雲の頃から、糸繰りから手遣いへと変化し、現在の浄瑠璃へと繋がっていったと考えられます。これらの変化は、古浄瑠璃から近世浄瑠璃へと至る過程において、音楽的にも大きな進化があったことを示しています。

現代に伝わっている義太夫節、河東節、一中節、常磐津節、富本節、清元節、新内節、宮園節といった様々な浄瑠璃の流派は、それぞれ独自の音楽的特徴を持ちながらも、古浄瑠璃の伝統を受け継いでいると言えます。古浄瑠璃は、これらの近世浄瑠璃の源流として、日本の芸能史において重要な位置を占めているのです。

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