北海盆唄

北海盆唄（ほっかいぼんうた）

北海道の豊かな大地に根差した民謡であり、夏の風物詩である盆踊りで中心的に使用される楽曲が「北海盆唄」です。単なる踊りの伴奏にとどまらず、北海道の歴史や文化、人々の暮らしを映し出す存在として、多くの人々に親しまれています。

発祥と歴史

この唄の発祥の地は、北海道中央部に位置する三笠市幾春別地区の炭鉱とされています。かつて、ここでは炭鉱労働者たちが日々の重労働の傍ら、盆踊りを楽しんでいました。彼らが歌っていたのは、現代の「北海盆唄」とは異なり、「べっちょ節」と呼ばれた、労働者間の交流の中で生まれた成人向けの歌詞を含むものでした。この「べっちょ節」が、北海盆唄の原型となったと考えられています。

時代は下り、太平洋戦争終結後の1945年（昭和20年）8月以降、この伝統的な唄に大きな転機が訪れます。「北海民謡の父」と称される民謡研究家、今井篁山（いまい こうざん）氏によって、歌詞や曲調が全面的に見直され、より広く親しまれる形へと改変されました。この新しい「北海盆唄」は、歌手・三橋美智也氏の歌唱によるレコードが発売されるやいなや大ヒットを記録。これを機に、北海道内はもとより、全国各地にその名が知られるようになり、広く普及していきました。現在、三笠市ではこの唄が生まれた地であることを記念し、毎年8月には大規模な「三笠北海盆おどり」が開催され、多くの参加者で賑わいます。

盆踊りでの利用

北海道における盆踊りは、一般的に二部構成で行われることが多いのが特徴です。夕方の早い時間帯は主に子供たちが参加する「子供の部」が設けられ、この時間には子供向けの楽曲「子供盆おどり唄」が使用されます。そして、その後に行われる「大人の部」で、満を持して「北海盆唄」が演奏されるのが通例となっています。

子供向けの「子供盆おどり唄」がわざわざ別途制作された背景には、従来の「北海盆唄」の原型である「べっちょ節」が持っていた成人向けの、あるいは卑猥とされる歌詞が、子供たちの教育上適切ではないという配慮があったと言われています。ちなみに、踊りの振り付けに関しては、「北海盆唄」よりも「子供盆おどり唄」の方が複雑なステップを含む場合が多いようです。

北海道内でも、地域によっては独自の特色が見られます。例えば、室蘭市で踊られる「北海盆唄」の振り付けには、独特のアレンジが加えられており、漁業が盛んな地域柄を反映してか、網を引くような動作が含まれるのが特徴です。一方で、港町として知られる函館市では、夏の風物詩として有名な「函館港まつり」で行われる「いか踊り」が盆踊りに相当するため、一般的な「北海盆唄」による盆踊りは開催されないのが通例となっています。

ザ・ドリフターズとの関わり

「北海盆唄」は、国民的なコメディグループであるザ・ドリフターズによってもユニークな形で取り上げられました。作詞家なかにし礼氏が手がけた替え歌「ドリフ音頭 北海盆歌より」を発表し、1971年5月5日にシングルとして発売された「ドリフのツンツン節/ドリフ音頭」に収録されています。この歌は、度重なるお見合いの末に結婚した相手への、ユーモラスな不満と同時に垣間見える愛情を歌ったものです。

同年10月からは、TBS系の人気番組『8時だョ!全員集合』の第2期が始まり、番組のオープニングテーマ曲として、上野玲児氏が作詞した別の替え歌バージョンが採用されました。さらに1973年6月10日には、上野玲児氏と松原雅彦氏が共同で作詞し、ドリフメンバーのギャグを取り入れた「チョットだけョ!全員集合」がシングルとしてリリースされ、大ヒットしました。この曲は、同年公開されたドリフ主演の映画『チョットだけョ全員集合!!』の主題歌としても使用されています。

ザ・ドリフターズは、2001年の『第52回NHK紅白歌合戦』に最初で最後の正式な出場歌手として登場した際、「ドリフのほんとにほんとにご苦労さんスペシャル」と題されたメドレーの中で、「北海盆唄」の替え歌も歌唱しました。また、2002年に開催された「第1回三笠北海盆おどり」には、この唄を全国に知らしめる一助となったザ・ドリフターズの高木ブー氏がゲストとして招かれ、地元との縁を深めました。

こども北海盆唄

成人向けの歌詞を持つ原曲とは別に、子供向けに作られた替え歌も存在します。作詞家・丘灯至夫氏による「こども北海盆唄」は、水木一郎氏やひまわりキッズといったアーティストによって歌われ、レコードやCDとして発売されており、こちらも広く知られています。

「北海盆唄」は、その歴史の中で形を変えながらも、北海道の夏の夜を彩る大切な存在として、今も多くの人々に歌い継がれています。

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