北米報知

北米報知：シアトル日系社会の100年を超える歴史を刻む邦字新聞

1902年、ワシントン州シアトルで創刊された「北米報知」は、北米最古の歴史を誇る邦字新聞です。日系移民の歴史、そしてシアトルの日系社会の変遷をリアルタイムで記録してきた、まさに生きた歴史そのものです。その歴史は、順風満帆とは言い難く、幾多の困難を乗り越えてきた道のりでした。

創刊と発展：シアトル日本人町の隆盛と戦争の影

「北米報知」の前身である「北米時事」は、日系歯科医の隈元清氏によって設立されました。創刊当時、シアトルには活気あふれる日本人町があり、「北米時事」はシアトルのみならず、タコマ、ヤキマ、スポケーンなどにも支局を展開するなど、大きな成功を収めていました。しかし、太平洋戦争の勃発は、この隆盛を断ち切ることとなります。真珠湾攻撃の夜、編集長の有馬純雄氏はFBIに逮捕され、「北米時事」は活動を停止せざるを得なくなりました。

戦後の再出発：告知板から「北米報知」へ

戦後、収容所から帰還した日系人たちは、互いの安否を確認するための場として「北米時事」に注目しました。この状況を受け、新聞は「北米報知」と改名し、再出発を果たします。タコマ時報の記者であった生駒貞彦氏と有馬純雄氏を迎え、1946年に創刊。当初は週刊でしたが、発行頻度を増やし、やがて日刊へと発展していきました。

1952年の新移民法により、日本からの帰還者が増加し、「北米報知」の購読者や広告主も増加。活気を取り戻した新聞には、地域コミュニティに関する記事、死亡記事、小説、俳句、短歌などの作品、そして日系企業だけでなく、様々な地元企業の広告が掲載されていました。伊藤一夫氏の「日本便り」など、多様なコンテンツが読者を引きつけました。

時代の波：高齢化と経営難

1970年代に入ると、創刊時からの読者であった一世の高齢化や発行部数の減少など、時代の変化による影響を受けるようになりました。経営は次第に悪化し、1981年には一時休刊に追い込まれました。しかし、シアトルの日系人リーダーたちの尽力により、資金が集まり、3ヶ月後に再び発行が再開されました。この出来事をきっかけに「北米報知出版社」が設立され、新たな体制で活動を続けました。その後も、発行頻度の変更や英語版の創刊、無料化など、様々な試みを行いながら、現在に至っています。

デジタル化への取り組みと未来

近年では、ワシントン大学との協力のもと、20世紀初頭の「北米時事」の記事から1950年代頃までの過去記事のデジタルアーカイブ化を進めています。これは、日系アメリカ人の歴史を後世に残すための重要な取り組みであり、デジタル時代における新聞の新たな役割を示唆しています。

まとめ：コミュニティの架け橋

「北米報知」は、単なる新聞ではありません。シアトルの日系コミュニティの歴史、文化、そして人々の繋がりを紡いできた、かけがえのない存在です。創刊から100年以上もの間、様々な困難を乗り越えながら、日系アメリカ人コミュニティに情報を届け続けているその姿勢は、未来に向けても重要な役割を果たし続けるでしょう。これからも「北米報知」の歩みを見守り、その存在意義を理解し、そして応援し続けたいと願っています。

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