北野うし

北野うし（1873-1963）は、明治から昭和初期にかけて活躍した女義太夫の太夫です。現在の有名人であるビートたけし氏を含む北野家の祖として知られています。

徳島城下の裕福な商家、粉問屋の娘として生まれたうしは、若くして女義太夫となり、「竹本八重子」の名で活躍しました。明治20～30年代、娘義太夫が流行した時代、彼女は人気を博したと伝えられています。しかし、時代の不況を受け、家計を助けるため1892年に上京。東京の寄席で芸を披露しました。

明治後期に娘義太夫を引退したうしは、息子・徳次郎をもうけました。徳次郎は明治大学卒業後、セメント会社に勤め、北野家は比較的裕福な生活を送っていたようです。うしは引退後も義太夫の指導を行い、その際に知遇を得た機転の利く娘、小宮さきを養女として迎え、息子の妻に迎えました。1923年1月、徳次郎とさきは結婚。しかし同年8月、徳次郎は虫垂炎で急逝するという悲劇に見舞われます。

夫を亡くしたさきと北野家を支えるため、うしは実の甥で腕の良い漆職人（後にペンキ職人となった）である正端菊次郎を婿に迎え入れました。1925年8月のことでした。菊次郎とさきの間には、5人の子供が生まれました。その中には、後に実業家として成功した北野重一、明治大学名誉教授となった北野大、そしてお笑い芸人として名を馳せたビートたけしが含まれています。うしは、たけし兄弟にとって父方の叔母であり、母方の養祖母という立場でした。

北野家の兄弟の回想や著作によると、菊次郎は仕事は優秀でしたが、酒癖が悪く浪費家であったため、結婚後の北野家は経済的に苦しい時期もあったようです。うしも苦労をしながら家計を支え、晩年まで義太夫の講師を務めるなど精力的に活動しました。たけしは、自身の芸の才能はうしから受け継いだものだと語っており、その才能は血縁を超えて受け継がれたと言えるでしょう。

北野うしの生涯は、ビートたけし著『菊次郎とさき』『たけしくん、ハイ!』、北野大著『なぜか、たけしの兄です』といった著作にも登場します。これらの作品を通して、うしの生き様、そして北野家の歴史の一端を知ることができます。

1963年、うしは90歳で生涯を閉じました。彼女の波乱に満ちた人生は、多くの後世の人々に影響を与え続け、その名は、ビートたけしという世界的なスターを生んだ家系の祖として、これからも語り継がれていくでしょう。

なお、北野うしを演じた俳優には、千石規子（NHK「たけしくん、ハイ!」）、樹木希林（テレビ朝日「菊次郎とさき」スペシャルドラマ版）、草笛光子（テレビ朝日「菊次郎とさき」レギュラー放送版）、吉行和子（テレビ朝日「菊次郎とさき」2007年レギュラー放送版）らがいます。それぞれの女優が、うしの複雑な人生を演じ、視聴者に深い印象を与えました。

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