女義太夫

女義太夫：歴史と現代

女義太夫（おんなぎだゆう）、または娘義太夫（むすめぎだゆう）は、女性が義太夫節を語る芸能です。現在では「女流義太夫（じょりゅうぎだゆう）」とも呼ばれ、「女義（じょぎ）」と略されることもあります。

演奏形式と歴史

基本的には太夫1名と三味線1名による演奏ですが、番組によっては複数名になったり、箏が加わることもあります。娘義太夫では、太棹と呼ばれる大型で低音域の三味線が用いられます。演奏は劇場や寄席などで行われ、人形浄瑠璃との合同公演や、人形や歌舞伎を伴わない素浄瑠璃での公演もあります。衣装は、夏は白、冬は白の着物に、太夫と三味線奏者ともに揃いの肩衣と袴を着用します。

江戸後期には既に女性による義太夫語りは存在しましたが、天保の改革による女芸人禁止令で衰退しました。この時代、女義太夫は「女義太（たれぎだ）」などと呼ばれ、小屋での興行を余儀なくされていました。しかし明治維新後の文化政策の変化により、1877年の寄席取締規則で女性の芸人が認められるようになると、寄席芸の一ジャンルとして再び隆盛を極めます。

1880年代には、竹本京枝や竹本東玉といった著名な女義太夫が東京に進出し、東京での娘義太夫の寄席は急増しました。この頃の義太夫の人数は、1875年から1887年にかけて男女ともに3～5倍に増加したと記録されています。竹本綾之助は空前の大スターとなり、その人気は歌舞伎と肩を並べるほどでした。

当時、人気義太夫の公演では、熱狂的なファンである「どうする連」と呼ばれる若者たちが、熱演に手拍子や歓声で反応し、場内は熱気に包まれていました。綾之助引退後も、竹本京子など人気義太夫には熱狂的なファン組織が形成されました。しかし、こうした熱狂的な人気ゆえに、不品行なども問題視され、1900年には新聞紙上で批判が掲載され、どうする連の勢力も衰えました。

1900年代に入ると、豊竹呂昇、豊竹昇之助・昇菊姉妹などが東京に進出し人気を博しました。東京では1000人を超える女義太夫が活動していましたが、地方都市ではそれほどの人気は得られませんでした。この時代、志賀直哉や高浜虚子といった文豪も女義太夫に魅了され、作品にもその様子が描かれています。社会主義者の集会などでも、余興として女義太夫が披露されるほど、社会に根付いた芸能でした。

日露戦争後には浪花節や薩摩琵琶などが流行し、1923年の関東大震災以降、娘義太夫の人気は急速に衰えていきました。

現代の女流義太夫

現在では、国立演芸場や「お江戸上野広小路亭」などで定期的に女流義太夫の演奏会が開かれ、ファン層も徐々に広がりつつあります。また、浄瑠璃担当者が不足している地芝居への参加や、途絶えた地芝居の再興にも協力するなど、活動を続けています。ビートたけしの祖母である北野うしも、竹本八重子という名で女義太夫として活躍していました。

女義太夫は、その歴史と文化的な意義、そして現代における活動を踏まえ、日本の伝統芸能として今後も発展していくことが期待されます。

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