匣の中の失楽

匣の中の失楽

『匣の中の失楽』（はこのなかのしつらく）は、竹本健治による推理小説であり、著者のデビュー作として知られています。1977年4月から1978年2月にかけて小説雑誌『幻影城』で連載されました。

概要

本作は、探偵小説というジャンルでありながら、その形式を自己否定するという、いわゆるアンチ・ミステリー、反推理小説という体裁をとっています。この作品は、小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』、夢野久作の『ドグラ・マグラ』、中井英夫の『虚無への供物』といった、日本の三大奇書と呼ばれる作品群から強い影響を受けており、これらの作品に本作を加えて四大奇書と呼ぶことがあります。その特異な構成と、ミステリーの常識を覆す試みが、多くの読者を魅了してきました。

特徴的な構成

『匣の中の失楽』の最大の特徴は、章ごとに虚実が反転するというメタフィクション的な構成です。具体的には、奇数章の世界では、偶数章が片城成（通称ナイルズ）によって書かれた実名小説『いかにして密室はつくられたか』の一部として描かれます。逆に、偶数章の世界では、奇数章が『いかにして密室はつくられたか』の一部であるという構造になっています。読者は、どちらが現実でどちらが虚構なのか、常に翻弄されることになります。

主な登場人物

曳間 了（ひくま りょう）: F大学の心理学専攻。金沢出身で、グループ内では『黒魔術師』と呼ばれています。
根戸 真理夫（ねど まりお）: F大学の数学専攻。
真沼 寛（まぬま ひろし）: Q大学の国文学専攻。
影山 敏郎（かげやま としろう）: S大学の物理学専攻。グループの中では比較的新しいメンバーです。
甲斐 良惟（かい よしただ）: N美大の油絵専攻。曳間とは同郷で、兄が『黄色い部屋』という店を経営しています。
倉野 貴訓（くらの たかよむ）: F大学の薬学専攻。神戸出身。
久藤 雛子（くどう ひなこ）: グループのアイドル的存在で、15歳。
久藤 杏子（くどう きょうこ）: N美大卒。雛子の若い叔母です。
羽仁 和久（はに かずひさ）: K大学の国文学専攻。倉野とは同郷で、『白い部屋』の住人。
布瀬 呈二（ふせ ていじ）: K大学の仏文学専攻。『黒い部屋』の住人。
片城 成（かたじょう なる）: 一卵性双生児の片割れで、ナイルズという別名を持ちます。
片城 蘭（かたじょう らん）: 一卵性双生児のもう片方で、ホランドと呼ばれています。

書誌情報

1978年7月に幻影城から単行本として刊行
1983年12月に講談社文庫から文庫版が出版
1991年11月に講談社ノベルスとして再版
2002年10月に双葉社から文庫版が出版
2015年に講談社から新装版として文庫化（現在入手可能なのはこの版）

海外版

台湾では『匣中的失樂』として翻訳出版されています。

関連作品

サイドストーリー: 匳の中の失楽（『幻影城の時代 完全版』に収録）
* 原型となった作品: 静かなる祝祭、人形館殺人事件（いずれも『幻影城の時代 完全版』に収録）

『匣の中の失楽』は、その複雑な構成と、読者を欺くような仕掛けによって、ミステリーファンから熱狂的な支持を受けている作品です。未読の方は、ぜひ一度手に取ってみてください。

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