匣鉢

匣鉢：陶磁器を焼き上げるための耐火容器

匣鉢（こうばち）とは、陶磁器の焼成において、作品を火炎やその他の外部要因から保護するための耐火性の容器です。別名、さや、えんごろ、ぼしなどとも呼ばれ、窯業において重要な役割を担っています。

匣鉢の概要と歴史

匣鉢は、窯詰め作業において、陶磁器を一つずつ収め、積み重ねる際に用いられます。主にムライト、コーディエライト、アルミナなどの耐火材料から作られており、その形状は用途によって異なります。食器の焼成には円形が一般的ですが、タイルの焼成には正方形や長方形の匣鉢が用いられることが多いです。

中国では、少なくとも宋代から匣鉢を用いた焼成技術が確立されており、その技術は鎌倉時代に日本へ伝来したとされています。特に、南中国から瀬戸地方へ伝わった技術が、日本の陶磁器生産に大きな影響を与えました。

匣鉢の使用は、良質な耐火粘土の産出地で発展しました。耐火粘土の産出が少ない地域では、陶磁器を直接積み重ねる「裸積み」が行われていましたが、肥前国などでは、天秤積みなどの工夫も凝らされました。瀬戸地方では、匣鉢を用いた積み重ね技術がさらに発展し、棚積み法が考案されるなど、独自の焼成技術が確立されました。一方、中国の景徳鎮では、匣鉢を用いた焼成が主流でした。

日本において、匣鉢を用いた焼成は、古窯（小窯）系の東部地域で盛んに行われていました。西部の地域では、製品と同質の粗大な粘土を外部に用いた「共素地」のボシ（匣鉢）が多く用いられていました。この共素地を用いたボシは、「極真焼」という高度な焼成技術の開発にも繋がりました。結晶釉の焼成における絶対的還元焼成なども、極真ボシの応用から生まれた技術です。

匣鉢以外の窯道具

匣鉢以外にも、窯業において様々な窯道具が用いられています。例えば、ローラーハースキルンではセッターが、タイル以外の焼成や原料の焼成には箱鞘（はこさや）が用いられます。これらの窯道具は、それぞれ異なる役割を果たし、効率的で質の高い焼成を実現するために不可欠な存在です。

匣鉢の重要性

匣鉢は、単なる容器ではなく、陶磁器の焼成工程において、均一な温度分布を実現し、製品の品質を確保するために重要な役割を果たしています。その歴史と技術革新は、日本の陶磁器文化の発展に大きく貢献しており、現代においても、伝統的な技術と最新の技術が融合した高度な焼成技術の根幹をなす存在です。様々な形状や材質の匣鉢が開発され、現代の多様な陶磁器生産を支えています。

もう一度検索