医博士

医博士の概要

医博士（いはかせ）は、古代日本の律令制度に基づく官職の一つであり、主に宮内省の典薬寮に所属していました。医博士という言葉が初めて記録されたのは『日本書紀』に見られ、特に欽明天皇の時代にその名が現れました。ただし、この職名は百済からの貢納に由来しており、日本独自の官制とは異なるものであり、その歴史的背景は非常に興味深いものです。

この官職が具体的に確立されたのは、天武天皇の治世にあたる675年頃であり、この時期に「外薬寮」の名称が記録に残っています。この外薬寮は、後の典薬寮に相当する組織であったと考えられています。天武・持統朝においては、医療に関する官制が整備され、医博士が重要な役割を果たすようになりました。

医博士の地位は重要で、定員はわずか1名とされ、相当位は正七位下となっています。典薬寮に所属する医師たちの中でも最も高位に君臨するこの職位には、優れた学識と豊富な経験を持つ医師が選ばれることが求められました。医博士の職責は、主に医学書や薬方についての教育を行い、医師や女医の育成に努めることにありました。

さらに、医博士は、女性医師が登場するまでは、官婢中から採用された30名の女医に対し、産科学の教育も担当していました。彼らの育成は重要であり、医師や女医は毎月1回の考試を受ける義務がありました。これにより、医療の質の向上が図られたと考えられています。

医博士は、位禄や季禄といった給与が支給されるほか、医学生たちから束脩（布の一端）を受け取る慣例がありました。794年には、職田として4町が支給されることもあったことが、記録に残っています。これらの制度は医療の充実を図るためのものであり、政権が医療を重視していたことが理解できます。

参考文献

『国史大辞典』第一巻、今江広道著、吉川弘文館、1979年

医博士という職は、古代日本における医療の発展に寄与した重要な役割を果たし、当時の医道や医療制度の一端を示すものでした。医師としてだけでなく、教育者としても重要な位置を占めていた医博士の存在は、歴史的にも意義深いものです。

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