十六夜だより

「十六夜だより」は、日本の演歌界を代表する歌手の一人、三橋美智也によって1983年にシングルとして発表された楽曲です。

この楽曲は、三橋が迎えた歌謡生活30周年を記念して制作された一連の作品の一つとして位置づけられています。特に注目されるのは、作詞・作曲を小椋佳が手がけている点です。小椋佳は、少年時代から三橋美智也の熱心なファンであり、その敬愛の念がこの作品の誕生に繋がりました。前年に発表された「越後絶唱」に続く30周年記念楽曲として、「十六夜だより」は三橋のキャリアにおける重要な節目を彩る楽曲となりました。

シングル盤には、「十六夜だより」がA面曲として収録され、その編曲は斉藤恒夫が担当しました。

一方、カップリング曲であるB面には「匠」が収録されています。この「匠」は、伝説的な彫刻家として知られる左甚五郎の生涯をテーマとした楽曲であり、歌詞の中には甚五郎にまつわる様々なエピソードやモチーフが織り込まれています。具体的には、栃木県日光東照宮の眠り猫や、京都市知恩院の鶯張り廊下など、甚五郎の仕事や伝説と関連付けられる要素が登場し、その芸術世界を描き出しています。

「匠」の制作には、作詞家として星野哲郎が参加しています。星野哲郎は数多くのヒット曲を手がけた著名な作詞家ですが、この「匠」は、彼が三橋美智也に詞を提供した唯一の作品として記録されています。これは、星野哲郎が同年、長年在籍したクラウンレコードの専属契約を離れてフリーの作詞家として新たな活動を開始した時期と重なっており、そのキャリアの転換期における貴重なコラボレーションと言えます。作曲はA面と同じく小椋佳が担当し、編曲も斉藤恒夫が行っています。

「十六夜だより」は1983年のリリース以降、三橋美智也の代表曲の一つとして親しまれました。後年、三橋の生涯が様々なメディアで振り返られる機会がありましたが、2017年9月13日に放送されたBS朝日『昭和偉人伝』で彼が特集された際には、この「十六夜だより」が取り上げられました。番組には作者である小椋佳も出演し、楽曲制作に至る経緯や三橋への思いなどが語られるとともに、改めてこの作品に光が当てられました。

このように、「十六夜だより」は三橋美智也の歌謡生活30周年という記念すべき年に、小椋佳、そしてカップリング曲では星野哲郎といった一流の作家陣とのコラボレーションによって生み出された、彼のキャリアを語る上で欠かせない楽曲と言えるでしょう。

参考文献として、三橋美智也自身の著書『ミッチーの人生演歌』（翼書院、1983年）などがあります。

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