十六歳の戦争

『十六歳の戦争』

『十六歳の戦争』（じゅうろくさいのせんそう）は、1973年に制作され1976年に公開された松本俊夫監督による日本映画です。この作品は、女優・秋吉久美子にとって初の主演映画としても知られています。物語は、愛知県の豊川を舞台に撰ばれ、青春の純真さと戦争の悲劇が巧みに描かれています。

あらすじ

1973年の夏、有永甚（しん）はヒッチハイクをしている最中に、十六歳の高校生・埴科あずな（あずな）と出会います。彼らはお互いに強い好意を抱き、あずなの実家で一緒に過ごすことになりました。あずなの家は、かつて「豊川海軍工廠」が存在した地であり、彼女の父親が工場を経営しています。

あずなは独特の行動をとる少女で、甚の目の前で突然全裸で川に飛び込んだり、ガス栓を開けて自殺を試みたりします。そんな彼女の行動の背後には、深く埋もれた感情と複雑な背景があるのです。甚は、あずなの母親である保子が、自身の亡母の同年代であることを知ります。

ある晩、あずなの伯父・岡治芳男が甚に襲い掛かる事件が発生します。彼は精神を病んでおり、戦後の記念日が近づくたびに錯乱状態に陥ってしまうのです。この晩の出来事は、後の展開を暗示する重要な要素となります。

豊川市では、8月7日に恒例の慰霊祭が行われます。この日は、1945年にアメリカ軍による爆撃で多くの命が奪われた悲しい記憶を思い起こし、犠牲者を慰霊する大切な日です。豊川海軍工廠の空襲では、2500人以上の人が亡くなっており、地元の人々にとって、この記憶は消えないものでした。

甚は、この慰霊祭を通じて自分の母・有永みずえが、豊川女子挺身隊の一員として犠牲になったことを知ります。さらに、みずえの霊があずなに宿って話しかけ、甚はその過去の悲劇を直接感じるようになります。自身が母の赤ん坊だったことを理解した時の甚の心の葛藤は、作品の核心をなす感情的な要素となっています。

物語は、甚が豊川を去る日を迎え、堤防道路で彼を見送るあずなとの言葉のやり取りでクライマックスを迎えます。あずなは、「人間は死んでも魂は生き続けると思う？」という問いを投げかけ、その後で彼に後ろを振り返らないように要求します。しかし、甚が振り向くと、目の前にはあずなの姿はなかったのです。この場面は、彼女の精神的存在と死者への思いを象徴するシーンと言えます。

スタッフとキャスト

製作は山口卓治、脚本は松本俊夫と山田正弘の共同作業によります。撮影は押切隆世が手掛け、音楽の作曲は下田逸郎が行いました。キャスト陣には、主役の有永甚役に下田逸郎、埴科あずな役に秋吉久美子、その母親に同じく秋吉久美子が二役で出演しています。

制作の背景

『十六歳の戦争』は、豊川空襲の記憶を風化させないために制作されました。最初は1974年に公開される予定でしたが、映画が難解だという理由で公開が1976年に延期された経緯があります。また、ヒロインのオーディションにおいて、秋吉久美子は自分の持ち込んだ文学作品によって注目を集め、監督の松本俊夫が彼女を推薦した結果、あずなの役を獲得しました。

音楽とリリース

映画の主題歌「さみしい人達」は下田逸郎が歌い、1973年に彼のアルバムにも収録されています。なお、本作公開時には、当初予定されていた楽曲が使用されず、新たに録音された楽曲が全編にわたり使用されました。この映画は心に残る悲劇を問いかける作品として、今もなお多くの人々に愛され続けています。

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