十字路 (1928年の映画)

日本映画『十字路』の概要

『十字路』は、1928年に公開された日本の映画で、衣笠貞之助が監督・脚本を手がけました。本作は、伝統的な時代劇映画とは一線を画し、剣戟シーンがない点が特徴です。この映画は、貧しい下町に住む姉弟が思いがけず破滅の道に足を踏み入れてしまう悲劇的な物語を描いています。

映画の影響と表現技法

『十字路』は1920年代のドイツ表現主義映画や室内劇から影響を受け、その中で特に表現主義的な舞台装置の使用が際立ちます。衣笠は、登場人物の心情や状況を視覚的に強調するために、遠近法を誇張したセットを作り、斬新でユニークな映像表現を追求しました。映画の撮影は、松竹下加茂撮影所で1928年3月7日に始まり、すべて夜間に行われました。特に古材を使って従来の時代劇には見られない独特のセットが構築され、カメラワークや照明にも様々な実験的な技法が取り入れられました。

公開の経緯と海外進出

本作は日本国内では公開されなかったが、1929年にはフランスで上映され、続いてドイツをはじめとする欧米諸国でも評価を得ることになりました。特にフランスでは、批評家たちから高い評価を受け、その完成度や演技力、技術が賞賛されました。衣笠による海外展開の努力や、フランスでの上映時のエピソードなども話題となりました。

音楽と映像技術

映画の音楽は、特別に作曲され視覚と聴覚両面での完成度を高めることに寄与しました。また、映画が見せる極端な表現主義的な要素は、日本映画の新たな可能性を見せつけるものとなりました。特に、当時の他の映画との違いを強調する要素として、プロットの重みと、舞台装置の独自性が挙げられます。

批評と評価

日本国内での初期の評価は必ずしも芳しくありませんでしたが、海外では高い評価を博しました。フランスやドイツの映画界からは革新性と表現力の高さが称賛され、特に「本物の日本の映像」として受け入れられました。批評家たちは、衣笠が描きたいことが明確に表現されていないとの指摘もしましたが、それとは裏腹に、フランスでは彼の作品が持つ独創性や深刻さが絶賛されました。

現在の状況

映画のフィルムは1970年代には失われたとされていましたが、ロンドンのナショナル・フィルム・アーカイブに保管されていた英語版が日本に返還されました。現在では、いくつかの異なるバージョンのプリントが東京国立近代美術館フィルムセンターに保存されており、DVDもリリースされています。これにより、多くの人が『十字路』を体験できる機会が提供されています。

本作は、そのさまざまな視覚的、技術的試みによって、日本映画の意義と影響力を国内外に示す重要な作品となりました。

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