十時半睡事件帖

『十時半睡事件帖』は、白石一郎が執筆した江戸時代後期を舞台とする時代小説の連作です。1974年の『別冊小説宝石』初冬特別号に掲載された作品を皮切りに、『小説宝石』『週刊小説』『IN POCKET』などに掲載された作品、さらに書き下ろし作品を加え、2003年まで連載が続きました。単行本は前半が青樹社、後半が講談社から出版され、その後講談社文庫で再刊行されています。

主人公は、福岡藩で要職を務めた後、隠居生活を送る十時半睡（とときはんすい）です。隠居後の号である「十時半睡」は、半分眠っているような、ゆったりとした時間の流れを象徴する名前と言えるでしょう。しかし、彼は再び藩に仕えることになります。総目付という重要な役職に就いた十時半睡は、藩内で発生する様々な事件を解決していきます。

物語は、主に十時半睡と同じ階級である馬廻り組の中級藩士を中心に展開しますが、下級藩士や足軽、町人など、様々な身分の者たちの生活や苦悩、喜びも描かれています。事件解決の過程で、十時半睡は老練な経験と洞察力を活かし、時には厳しく、時には優しく、淡々と事件に対処します。その様は、酸いも甘いも経験してきた人物らしい、落ち着いた風格を感じさせます。

作品全体のテーマは人情です。しかし、単なる人情話だけでなく、色っぽい話やユーモラスな話、そしてほろ苦い話など、様々な要素が盛り込まれています。落語のような軽妙な語り口調と、時代劇の雰囲気を巧みに融合させた、ベテラン作家ならではの構成となっています。特に興味深いのは、太平の世の武士を現代のサラリーマンに例えたような描写が多く見られる点です。時代劇の枠にとらわれず、現代的な要素を取り入れながらも、時代劇としての魅力は損なわれていません。

十時半睡は、隠居生活を送る中で、事件解決を通して人々の生活や社会の矛盾、そして人間の心の機微を深く見つめていきます。彼の経験と洞察力は、読者にとって貴重な教訓となるでしょう。また、物語に登場する様々な登場人物たちは、それぞれの立場や境遇の中で、懸命に生きています。彼らの生き様は、現代社会を生きる私たちにとっても、共感できる部分が多いはずです。

『十時半睡事件帖』は、単なる時代劇としてだけでなく、人間ドラマとしても非常に高い完成度を誇る作品です。時代劇を初めて読む方にも、時代劇に造詣の深い方にも、楽しめる作品と言えるでしょう。1994年には、NHKの金曜時代劇枠でテレビドラマ化され、島田正吾さんが主演を務めました。このドラマ化によって、さらに多くの視聴者に作品の魅力が伝えられました。

主な単行本として、『庖丁ざむらい』『観音妖女』『刀』『犬を飼う武士』『出世長屋』『おんな舟』『東海道をゆく』などが挙げられます。各作品には、ISBNコードが割り当てられています（例:『庖丁ざむらい』ISBN 978-4-7913-0115-7, ISBN 978-4-06-184098-0）。これらの作品を通して、十時半睡の活躍と、江戸時代後期の社会風俗を深く知ることができます。 時代小説ファンならずとも、一度手に取ってみる価値のある作品群です。 また、インターネット上には、作品に関する情報やレビューなどが掲載されている可能性があります。興味のある方は検索してみてください。

もう一度検索