十階のモスキート

『十階のモスキート』

『十階のモスキート』は1983年に公開された日本映画で、崔洋一が監督し、内田裕也が主演を務めました。この作品は、実際の警察不祥事を題材にしたものであり、崔監督のデビュー作でもあります。そのため、作品には強い社会的メッセージが込められており、観客に深い印象を残すものになっています。

概要

この映画は、1978年に実際に発生した西陣警察署の警官による拳銃盗難および強盗未遂事件を元にしています。この事件の背後には、警察の職務に対する倫理的な問題や、個人の崩壊していく様子が描かれています。出世の見込みもない中で、妻に去られ、借金に苦しむ警察官が主役であり、その心の葛藤が物語を通じて表現されています。

ストーリー

主人公は出世の機会もなく、妻から逃げられてしまった冴えない警察官です。彼はマンションの十階に住んでいて、毎月の慰謝料や養育費、さらにはギャンブルによる借金に追われ、精神的に追い込まれていきます。そのような状況の中で、主人公は次第に追い詰められ、自身の信念と社会の矛盾に直面していきます。

キャスト

この映画には、内田裕也の他に小泉今日子や吉行和子など、多数の著名な俳優たちが出演しています。特に内田と中村れい子の濡れ場の演技は注目を浴び、公開当初から話題を呼びました。また、ビートたけしや横山やすしなどが脇を固めており、それぞれのキャラクターが物語の深みを与えています。

映画製作の裏側

映画の制作過程は決して順調ではなく、資金調達に苦労したとされています。最初は東映セントラルフィルムに持ち込みましたが、拒否されたため、他社にも企画を持ち込みました。しかし、どこも協力を得ることができず、最終的にニュー・センチュリー・プロデューサーズとATGに相談することになりました。ここで内田裕也の個人的な信用を使い、資金を調達しましたが、予算はオーバーしてしまいました。このような背景を持つ映画であり、製作陣の情熱が詰まっています。

タイトルの意味

『十階のモスキート』というタイトルは、崔監督自身の思索から生まれました。彼は「大きな宇宙の中では、自分はちっぽけな存在に過ぎない」と感じており、この映画を通じて人間の小さな力でも他者に影響を与えられるという希望を表現しています。さらに、タイトルの「十階」には「十戒」という意味も暗示されており、倫理観についての考察を促す要素も含まれています。

撮影と興行

映画の撮影は千葉県君津市などで行われ、競艇場のシーンは崔監督の趣味が反映されています。また、内田裕也は事件をテーマにしたこの映画に対し、深い社会的意義を訴えていました。公開は新宿オデヲン座などで行われ、多くの観客の目を引きました。全体として、『十階のモスキート』は社会問題への鋭い視点を持ちながら、エンターテインメントとしても成功した作品となっています。

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