千住葱

千住葱：江戸東京野菜の伝統と現在

千住葱は、東京都足立区周辺で古くから栽培されてきた江戸東京野菜の一つです。かつては千住河原町付近の市場で盛んに取引され、その品質の高さから高い評価を得ていました。

歴史：砂村から千住へ、そして全国へ

ネギの起源は中国西部またはシベリアとされ、古くから栽培されてきました。日本には古くから伝わり、『日本書紀』にも記述があります。千住葱の起源は、江戸時代、現在の江東区砂町にあたる砂村に、大坂から種が持ち込まれたことに遡ると言われています。その後、品種改良や育成を経て、葛飾区や足立区へと広がり、明治中期以降本格的な生産が始まり、「千住葱」と呼ばれるようになりました。

当初は葉の部分を食べる葉葱でしたが、江戸の気候が大阪より寒いため、白い根深葱へと変化していきました。千住青物市場への出荷により名声を得て、蕎麦屋などでは「千住葱でなければ」と言われるほど高い評価を受けていました。第二次世界大戦中は栽培が減少しましたが、終戦後は比較的早く回復し、自家採種による種子の保存が功を奏しました。しかし、都市化の進展や農家の高齢化、相続問題などにより、栽培面積は減少。産地は埼玉県などに移り、千住青物市場も移転しました。それでも、千住葱商組合は「千住山柏青果物市場」で商いを続け、ブランドを守り続けています。

品種とブランド：多様な系統と現代のブランド化

ネギの品種はそれほど多くありませんが、千住葱もいくつかの系統があります。千住赤柄、千住黒柄、千住合黒、千住合柄など、葉の色や性質が異なる系統が大正時代に分類され、さらに細かく品種が分かれていました。明治時代には分けつしない一本ネギの形態への改良も試みられました。

これらの品種は各地に広がり、深谷、越谷、石倉、利根など各地で千住系品種の生産が行われました。昭和30年代には「金長」という優れた品種も誕生し、全国的な栽培が行われました。現在では、「江戸千住葱」、「千住一本ネギ」、「新宿一本ねぎ」などのブランドもあります。一方、千住葱商である葱茂は、「千寿葱」というF1種のブランド長葱を販売しており、伝統野菜である固定種とは区別されています。

栽培方法：土壌と気候、そして伝統技術

ネギの栽培には、耕土が深く保水性に優れた土壌が適しています。千住葱は土寄せ栽培を行うため、砂や火山灰土は不向きです。千住周辺は河川が運んだ土砂による沖積地で、ネギ栽培に適した土壌でした。千住系の品種は冬季の休眠が浅いため、周年生産が可能です。秋冬どり、春どり、夏秋どりの作型があり、それぞれの収穫時期に適した品種が選ばれます。発芽から収穫まで約220日と栽培期間が長く、風雨や病害の影響を受けやすいです。そのため、土壌のpH調整なども行われます。

調理法と利用：生食から加熱料理まで幅広く活用

千住葱は、白い葉鞘の部分を主に食べますが、緑色の葉の部分も薬味などに利用できます。生食では薬味として、加熱料理では鍋物、味噌汁、炭火焼など、様々な料理に使われます。その品質の高さから、煮物にしても煮崩れせず甘みが増すのが特徴です。近年では、「千住葱炒め」、「千住葱串カツ」など、千住葱の甘みを生かした料理も考案されています。また、航空会社の機内食や有名店のすき焼きにも使用されるなど、高級食材としても高い評価を得ています。

その他：食育、奉納、メディアなど

千住葱は、学校給食や食育の授業などにも取り入れられ、地域の子どもたちに地元の伝統野菜を伝える活動も行われています。また、浅草神社への奉納や、テレビ番組での紹介などを通じて、その存在は広く知られています。

千住葱は、江戸時代から続く歴史と伝統技術、そして現代のブランド化戦略によって、その存在感を保ち続けている貴重な伝統野菜です。今後とも、地域の食文化を支える重要な存在として、その価値はますます高まっていくでしょう。

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