千春のひとりうた

千春のひとりうた

概要

STVラジオの番組「サンデージャンボスペシャル」内で放送された一コーナー「千春のひとりうた」は、シンガーソングライター松山千春にとって、事実上の芸能界デビューの場として非常に重要な位置を占めています。1976年4月4日から1977年10月2日まで、毎週15分程度の枠で設けられていました。

設立の経緯と内容

このコーナーが誕生した背景には、STVラジオのディレクターであった竹田健二氏の存在があります。松山千春は1975年に開催された「全国フォーク音楽祭 北海道大会」に出場しましたが、残念ながら落選しました。このコンテストを担当していた竹田氏は、松山の才能を見出し、彼のために「サンデージャンボスペシャル」内にこのコーナーを設けることを企画しました。

「千春のひとりうた」では、松山は毎週竹田氏から新たなオリジナル曲を2曲制作するという課題を与えられました。これは、後にレコード化される楽曲を含む、松山の音楽的基盤となるオリジナル曲のストックを蓄積することを主な目的としていました。また、このコーナーは単なる楽曲発表の場にとどまらず、松山が聴衆の前で歌うための実践的な「訓練の場」としての側面も持っていました。

北海道内での反響とレコードデビュー

このラジオコーナーを通じて、「足寄出身のシンガーソングライター、松山千春」という名前は、瞬く間に北海道内のリスナーに知れ渡ることとなりました。彼の素朴ながらも力強い歌声とメッセージは多くの共感を呼び、人気は徐々に高まっていきました。

そして、「千春のひとりうた」が放送されていた期間中に、松山千春は当時のキャニオン・レコードから正式にレコードデビューを果たしています。ラジオでの地道な活動が、全国規模での音楽活動へと繋がる大きな一歩となったのです。

ディレクター竹田健二氏との絆、そして別れ

松山千春のキャリアにとって、竹田健二氏はかけがえのない存在でした。しかし、竹田氏は1977年8月27日、急性心不全のため36歳の若さで急逝してしまいます。

松山自身が著した「足寄より」には、竹田氏との最後の交流が綴られています。竹田氏が亡くなる前日、松山は室蘭でのコンサートを終えて足寄を経由し札幌に戻り、竹田氏に電話をしました。竹田氏は、これからニッポン放送とキャニオン・レコードの関係者と会う予定であること、そして翌日には松山と一緒に函館へ行けるかもしれないと話し、翌朝10時にSTVラジオで待ち合わせることを約束しました。この時、竹田氏は松山に「オールナイトニッポン」第二部の生放送レギュラー出演という大きなオファーがあったことを伝えていたのです。しかし、翌朝、竹田氏との待ち合わせ場所にSTVラジオへ向かった松山は、そこで竹田氏が急逝したという悲報を知ることになります。この突然の別れは、松山にとって大きな衝撃を与えたことは想像に難くありません。

演奏曲について

「千春のひとりうた」で演奏された楽曲の中には、その後、公式にレコードやCDとして商品化されたものも多数存在します。しかし、一方で、このコーナーでのみ披露され、現在に至るまで商品化されていない楽曲も少なくありません。そのため、これらの楽曲について言及する際には、単に「未発表曲」と表現するのではなく、公式な媒体としては「非商品化曲」と記述されることがあります。これは、ラジオという形で一度は発表された楽曲である、というニュアンスを含んでいます。

「千春のひとりうた」は、一人の若きシンガーソングライターがその才能を開花させ、世に出るための揺籃の地であり、また彼を支えた人との深い絆が育まれた場所でした。

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