半濁音

半濁音とは

日本語における半濁音とは、「ぱ」「ぴ」「ぷ」「ぺ」「ぽ」のように、子音に/p/を含む音節の総称です。これらの音は、音声学的には無声音に分類され、濁音とは区別されます。半濁音を表す記号「゜」は半濁点と呼ばれます。

半濁音の歴史

古代

奈良時代以前の古代日本語では、パ行とハ行の区別がなく、両方とも[p]のような音で発音されていたと考えられています。その後、音の弱化が進み、[ɸ]のような音へと変化したとされています。

平安時代

平安時代になると、漢語の影響により撥音「ん」や促音「っ」が導入され、パ行音の発音に変化が生じました。

• - 「ん」や「っ」の後では[p]音で発音される
• - それ以外の場所では[ɸ]音で発音される

しかし、この時点ではまだ[p]と[ɸ]は同じ音素の異音であり、区別されていなかったと考えられます。

16世紀

16世紀にポルトガル語から多くの語彙が取り入れられましたが、この時、語頭の[p]音は「ば」に置き換えられ、語中では「っ」が挿入されることが多く見られました。このことから、[p]音の発音場所にはまだ制約があったことがわかります。例として、padreは「ばてれん」、Europaは「えうろっぱ」、capaは「かっぱ」のように変化しました。

江戸時代

江戸時代になると[ɸ]音はさらに弱化し、現代語に近い[h]や[ç]のような音になりました。この時点で、[p]音との区別はより明確になり、同一の音素とは認識しにくくなったと考えられます。書籍の大衆化とともに、読みやすさの工夫として半濁点が発明され、より一般的になった[h][ç][ɸ]ではなく、少数派だった[p]に付与されるようになりました。

近代

近代に入り、欧米からの外来語が大量に流入すると、語頭や「ん」「っ」以外の場所でも[p]音が使われるようになりました。これにより、/h/と/p/の最小対が確立し、半濁音の独立性が明確になったと言えます。

半濁音の現れる場所

半濁音は、主に以下の場所で現れます。

漢語

漢語では、「〜ん」や入声音「〜つ」「〜ち」「〜ふ」の後に「は行」音が来る場合、半濁音になります。数詞では例外的に「〜く」（六=ろく、百=ひゃく）の後にも現れます。例として、「おんぷ（音符）」「はっぴょう（発表）」「いっぽん（一本）」「がっぺい（合併）」などがあります。ただし、「〜ふ」については、本来の音が失われた後に使われ始めた熟語では、この限りではありません（例:ごうほう（合法））。

外来語

近代以降、外来語の流入によりパ行音が広く使われるようになりました。

擬声語

擬声語では、語頭にパ行音が頻繁に現れます。これは、歴史的な音の変化から取り残されたもので、古い発音を残していると考えられます。「ぱさぱさ」「ぷるぷる」「ぽたぽた」「ぽっかり」「ぴったり」「ぽろり」などが例です。また、派生語として「パクる」「ピリ辛」などがあります。

同系語との比較では、「ぱたぱた」に対して「旗」「はためく」は半濁音を持たず、「ぴかぴか」に対して「光」「光る」が、「ぴよぴよ」に対して「ひよこ」が半濁音を持たないことがわかります。これらは遠い昔には[p]で発音されていたものの、名詞や動詞においては[h]へと弱化したものと考えられています。

その他

その他にも、「っ＋半濁音」や「ん＋半濁音」の形で和語が存在します。

• - 動詞の合成語で「き/し/ち/り/ひ＋は行」が促音便化したもの：「ひっぱる（引き張る）」「さっぴく（差し引く）」「ぶっぱなす（ぶち放す）」「酔っぱらう（酔ひ払ふ）」など
• - 促音便化したもの：「尻尾（しりほ/しりを）」など
• - 「っ」の挿入によりハ行が半濁音化したもの：「あっぱれ（あはれ）」「もっぱら（もはら）」「しょっぱい（しほはゆし）」「あけっぴろげ（あけひろげ）」など
• - 接尾辞として促音を伴って発達したもの：「〜っぽい（多し）」「〜っぱなし（放し）」など
• - 変則的に撥音便化したもの：「おもんぱかる（思ひ量る）」など
• - その他、語源が不明確なもの：「葉っぱ」「おっぱい」「ハンパ」など

まとめ

半濁音は、日本語の音韻史において重要な役割を果たしてきました。古代の[p]音から[ɸ]音、そして現代の[h]や[ç]音へと変化してきた過程は、日本語の音韻変化の歴史を反映しています。外来語の流入や擬声語の特殊性も、半濁音の成立に影響を与えています。半濁音は、日本語の多様性を理解する上で欠かせない要素と言えるでしょう。

脚注

関連項目

• - 清音
• - 濁音
• - 鼻濁音
• - 五十音
• - ハ行

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