半生の記 (松本清張)

『半生の記』の概要

『半生の記』は、著名な作家松本清張による自伝的な作品で、1963年から1965年にかけて『文藝』に連載された後、1966年に改稿されて刊行されました。この作品は彼の人生の軌跡を辿っており、父の出身地から始まり、彼の幼少期や職業、家族生活などが詳細に描かれています。

作品の構成と改訂

初版は、下関での幼少期から彼のさまざまな職業経験、朝鮮での兵役、そして戦後の生活までを描写しています。特に、父母や祖母、妻子との生活は、彼の人生における重要な要素として言及されており、作品全体に深い感情を与えています。最初の連載時には最終章「点綴」が含まれていましたが、単行本の発行時には大幅な改稿が行われ、この部分は削除されました。また、単行本には新たに「あとがき」が追加されています。

1977年には、河出書房新社から「増補版」が刊行され、この版では「立ち読み」「内職文筆業」「母の故郷」といった新たな章が追加されました。これらは『読売新聞』に連載されたもので、新たな視点を作品にもたらしています。

執筆背景

この自伝を書くきっかけは、松本清張が編集者にしつこく要請されたことによるものです。当初は自伝を書くことを躊躇っていた清張ですが、編集者からの熱心な働きかけにより、執筆に至ったと述べています。彼自身が本作について「書かなければよかった」とも語ったとされ、テーマを絞り込むことに関連して整理された内容については、彼自身にとっての困惑もあったようです。

評価と影響

『半生の記』は多くの文学評論家から高く評価されており、特にその心理的表現に注目が集まります。哲学者の鶴見俊輔はこの作品を「彼の最も好きな作品」と述べ、清張の作家としての成長における重要な役割を果たしたと指摘しています。また、日本文学研究者の樫原修は、この作品が清張自身の経験と選択によって構成されていることを強調し、彼の感情の排除が作品を特徴づけていると述べています。

文芸評論家の高橋敏夫は、故郷に対する希求が感じられない一方で、作品全体には故郷への想いが満ちていると分析しており、文中には父母の苦難が息子である清張によって代行されているという視点も提供されています。

ゆかりの場所と評論

1996年には、下関市に本作の一節を刻んだ文学碑が建立されました。この碑は、清張の幼少期の思い出や故郷への思いを反映したものとなっています。また、作品の内容に関しては、他の清張の小説や関連文献と合わせて探求されることが多く、彼の文学生涯に影響を与えた背景も明らかにされています。このように『半生の記』は、松本清張自身の歴史や文学界における位置を考える上で欠かせない作品であり、彼の豊かな体験が色濃く反映された一冊となっています。

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