協奏交響曲 (ハイドン)

協奏交響曲 変ロ長調 作品84 Hob. I:105

フランツ・ヨーゼフ・ハイドンによって作曲されたこの作品は、ヴァイオリン、チェロ、オーボエ、ファゴットという四つの異なる楽器を独奏群とする、類稀なる編成の協奏交響曲です。しばしば「交響曲第105番」という通し番号で呼ばれることもありますが、これは厳密には交響曲ではなく、協奏交響曲という独立したジャンルに属します。

作曲の背景

この協奏交響曲は1792年にロンドンで誕生しました。ハイドンは、才能あるヴァイオリニストであり興行主でもあったヨハン・ペーター・ザーロモンの招聘により、1791年1月に初めてイギリスの首都ロンドンを訪れていました。ハイドンはこの地でザーロモン主催の演奏会にチェンバロ奏者（あるいはピアノ奏者）として参加し、1791年と1792年のそれぞれ12回にわたるシリーズ公演で、自身の新作や旧作を発表しました。有名な「ロンドン交響曲」の一部など、多くの傑作がこの時期に生み出されています。

当時のロンドンでは、協奏交響曲が非常に人気のあるジャンルでした。ヨハン・ゼバスティアン・バッハの息子であるヨハン・クリスティアン・バッハをはじめ、多くの作曲家がこの形式の作品を手がけており、ザーロモンの演奏会と競合していた「プロフェッショナル・コンサート」のような他の公演シリーズでも、協奏交響曲が重要なプログラムとして取り上げられていました。ハイドンはこうした状況に刺激を受け、また招聘主であるザーロモンの優れたヴァイオリンの技量を活かせる作品として、この協奏交響曲の作曲を決意したと考えられています。さらに、ハイドン自身が交響曲の中で特定の楽器を際立たせて使用することを好み、楽器間の対比的な効果にも強い関心を持っていたことから、協奏交響曲という形式は彼の音楽的探求心を刺激するものであったと言われています。

初演と評価

本作は1792年3月9日、第4回ザーロモン演奏会で初演され、聴衆から熱狂的な歓迎を受けました。そのわずか一週間後の3月16日に行われた第5回演奏会でも再演されるほどの好評を博し、さらにハイドンの二度目のイギリス滞在中である1794年2月24日の第3回ザーロモン演奏会でも再び演奏されました。これらの事実は、この協奏交響曲が当時のロンドンでいかに高く評価され、繰り返し演奏されるほどの人気を誇っていたかを物語っています。

楽曲構成

全体は三つの楽章で構成されており、全曲の演奏時間は約22分です。

第1楽章：アレグロ

変ロ長調、4分の4拍子。ソナタ形式で書かれています。この楽章では、第二主題が提示部において早くも独奏楽器によって奏でられるという、当時の協奏的なソナタ形式としては比較的珍しい特徴が見られます。管弦楽による堂々とした開始の後、独奏群が華やかに登場し、軽快で表情豊かな主題を展開していきます。

第2楽章：アンダンテ

ヘ長調、8分の6拍子。穏やかで抒情的な雰囲気を持つ楽章です。ここでもソナタ形式が用いられていますが、その音楽内容は温かく、歌に満ちています。独奏楽器それぞれに見せ場があり、美しい旋律が絡み合いながら静かに進行します。

第3楽章：アレグロ・コン・スピーリト

変ロ長調、4分の2拍子。「活気をもって速く」という意味の指示がつけられています。自由なソナタ形式で構成されていますが、その形式にはいくつかの異例な点が認められます。例えば、冒頭で第一主題が管弦楽全体によって提示されることや、楽章の途中にアダージョのテンポでレチタティーヴォ風のパッセージがしばしば挿入されることなどは、当時の常識から外れた斬新な手法でした。この楽章はエネルギッシュで機知に富み、独奏楽器群と管弦楽が見事に呼応し合いながら、華やかに全曲を締めくくります。

この協奏交響曲は、ハイドンのロンドン時代における作曲活動の多様性を示すだけでなく、彼がいかに当時の流行や自身の音楽的関心を取り入れながら、革新的な作品を生み出していたかを証立てる一曲と言えるでしょう。

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