南加瀬貝塚

南加瀬貝塚：失われた縄文・弥生時代の記憶

南加瀬貝塚は、かつて神奈川県川崎市幸区の南加瀬付近、現在の川崎市役所日吉合同庁舎近くに位置していた、縄文時代から弥生時代にかけての貝塚遺跡です。地元では「加瀬山」と呼ばれる小高い丘陵の南東斜面に存在していました。

加瀬山の歴史

現在、加瀬山の山頂部分は夢見ヶ崎動物公園となっていますが、この地は非常に古い歴史を持っています。約6000年前の縄文時代には、加瀬山は海に囲まれた小さな島でした。古代には貝塚が形成されただけでなく、白山古墳が築かれ、「加瀬台古墳群」として知られる7基の古墳群が現在も残っています。加瀬山は、まさに歴史が積み重なった場所と言えるでしょう。

発見と調査

南加瀬貝塚が初めて学術的に注目されたのは、1904年（明治37年）頃のことです。アマチュア考古学者の江見水蔭によって学会でその存在が報告されました。その後、1906年（明治39年）には、スコットランド人のニール・ゴードン・マンローと東京帝国大学の八木奘三郎によって発掘調査が行われ、弥生時代と縄文時代の貝塚であることが確認されました。出土した貝殻の約90%はハマグリであったことが報告されています。

破壊と消失

南加瀬貝塚は、その規模の大きさから重要な遺跡として期待されましたが、1914年（大正3年）から1915年（大正4年）にかけて、東芝が工場を建設する際に、その大部分が破壊されてしまいました。大規模な貝塚が失われたことは、日本の考古学史上、大きな損失と言えるでしょう。

現在

現在、南加瀬貝塚の痕跡はほとんど残っていません。しかし、川崎市役所日吉合同庁舎近くの坂には、かつてこの場所に貝塚があったことを知らせる表示板が設置されています。この表示板は、かつてこの地に存在した人々の営みを静かに伝えています。

参考資料

* 岡本孝之 著「考古学史の考古学　4.南加瀬貝塚の発掘（発見から破壊へ）」、神奈川県考古学会 編『平成14年度考古学講座資料集 学史を語る～学史を踏まえた最新の研究 ～』神奈川県考古学会、2003年3月23日、1-18頁。

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