ニール・ゴードン・マンロー

ニール・ゴードン・マンローの生涯

ニール・ゴードン・マンロー（Neil Gordon Munro、1863年6月16日 - 1942年4月11日）は、スコットランド出身の医師、考古学者、そして人類学者です。エジンバラ大学で医学を修めた後、船医として日本に渡り、その地で医療活動、考古学研究、アイヌ民族の研究に情熱を注ぎました。

日本での活動

29歳で来日したマンローは、横浜の病院で医師として勤務した後、長野県軽井沢のサナトリウム院長を務めます。医学の知識を生かしながらも、考古学への関心は深く、1905年には横浜市内で三ツ沢貝塚を発見し、発掘調査を実施しました。この発見は、日本の先史時代研究において重要な一歩となりました。マンローは、母国で培った考古学の知識を基に、日本列島にも旧石器時代の人類が存在したという仮説を立て、神奈川県酒匂川流域で石器らしきものを発見しました。この探求は、日本の旧石器時代研究の先駆けとなりました。

日本への帰化と家族

マンローは、日本人女性と結婚し、1905年に日本に帰化しました。1922年には、来日したアルベルト・アインシュタインと面会しています。関東大震災で横浜の自宅を失った後、軽井沢に移り住み、その後、北海道二風谷でアイヌ民族の研究と医療活動に携わりました。

マンローは、生涯で数回結婚を繰り返しています。最初の妻はドイツ人のアデル・マリー・ジョセフィン・レッツで、二人の子供をもうけましたが後に離婚。その後、日本人女性の高畠トクと結婚しますが、これも離婚に至りました。1914年にはスイス人のアデル・ファヴルブランと結婚しましたが、彼女も精神を病み離別。最後に看護婦長の木村チヨと結婚し、彼女とともに北海道での活動を支えました。度重なる結婚生活は、彼の波乱に満ちた人生を象徴しているかのようです。

アイヌ民族研究

1932年、マンローは北海道二風谷に移り住み、アイヌ民族の研究に本格的に取り組み始めました。ロックフェラー財団からの助成金を得て、医療活動を行いながら、アイヌ文化の資料収集、研究に尽力しました。しかし、その活動は地域住民から奇異の目で見られ、放火騒ぎやスパイ疑惑といった困難にも直面しました。それでも、マンローはアイヌの人々への理解を深め、彼らの文化を記録に残すことに情熱を注ぎました。

死と遺産

1942年、マンローは病のため亡くなりました。彼は、アイヌの人々と同様の葬儀を希望し、遺骨の一部は二風谷に、一部は軽井沢に埋葬されました。彼の遺品と研究資料は、フォスコ・マライーニに譲られ、アイヌ研究の遺稿は人類学者の手によって『AINU Past and Present』としてまとめられました。また、マンローが収集したアイヌの民具や記録映像は、北海道立北方民族博物館などで公開されています。

軽井沢での活動

マンローは軽井沢にも深い関わりがありました。1917年、軽井沢に診療所を開設し、その後サナトリウムの院長を務めました。彼の病院は多くの人々に利用され、地域医療に貢献しましたが、経営は困難を極めました。しかし、マンローは貧しい人々からは治療費を取らず、献身的な医療活動を行いました。彼の軽井沢での活動は、堀辰雄の小説『美しい村』にも「レイノルズ博士」として描かれています。

マンローの生涯は、医師、考古学者、人類学者としての多面的な才能と、日本、特にアイヌ民族への深い愛情に彩られています。彼の遺した業績は、現在でも多くの人々に影響を与え続けています。

著書と参考文献

『先史時代の日本』第一書房（英文、復刻版、1982年）
『アイヌの信仰とその儀式』国書刊行会　2002年
桑原千代子著『わがマンロー伝―ある英人医師・アイヌ研究家の生涯』新宿書房　1983年
横浜市歴史博物館2013企画展示図録『N・G・マンローと日本考古学－横浜を掘った英国人学者－』
横浜市埋蔵文化財センター2004『埋文よこはま』10号 p.4　公益財団法人横浜市ふるさと歴史財団
松藤和人著 『日本列島人類史の起源　－「旧石器の狩人」たちの挑戦と葛藤－』 雄山閣 2014年

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