南桂子

南桂子：詩情あふれる銅版画の世界

南桂子（みなみ けいこ、1911年2月12日-2004年12月1日）は、20世紀を代表する日本の銅版画家です。少女、鳥、樹木といったモチーフを、繊細で詩情豊かなタッチで表現した作品群で知られています。その作品は、国内外の数多くの美術館に収蔵され、高い評価を得ています。

華麗なる家系と波乱の幼少期

南桂子は、富山県に地主の家に三女として生まれました。彼女の祖母は、偉大な科学者である高峰譲吉の妹であり、父は東京帝国大学法科大学卒業というエリートでした。母は歌人として知られた日本女子大学国文科出身者でしたが、桂子が幼い頃に亡くなり、継母に育てられました。さらに12歳の時に父も亡くし、親族に育てられるという、波乱に満ちた幼少期を送りました。

上京と転機

太平洋戦争後、長男とともに上京した南桂子は、作家壺井栄や洋画家森芳雄に師事し、童話や油絵を学びました。1949年には第13回自由美術展に油彩画を出品し、そこで後の夫となる版画家、浜口陽三と出会います。

パリでの研鑽と国際的な評価

1954年、南桂子は浜口陽三とともにフランス・パリへと渡ります。40歳を過ぎてから銅版画を始め、ジョニー・フリードランデル版画研究所でアクアチントを学びました。彼女の才能はすぐに開花し、1956年には作品「風景」がフランス文部省に買い上げられました。

その後も、[ニューヨーク近代美術館]のクリスマスカードやユニセフのグリーティングカードに作品が採用されるなど、国際的な舞台で活躍しました。ユニセフのグリーティングカードは200万枚以上発行され、大きな反響を呼びました。

さらに、谷川俊太郎の詩集『うつむく青年』の挿絵や装画を手掛けたり、世界文学全集や福永武彦の作品に挿絵を提供するなど、幅広い分野で才能を発揮しました。

パリとアメリカでの活躍

1961年から1981年まではパリの画廊と専属契約を結び、精力的に制作を続けました。1982年には帝国ホテルの全客室に彼女の銅版画が飾られ、同ホテルの情報誌の表紙も飾るなど、その名声は不動のものとなりました。1981年にはパリからサンフランシスコに移住し、1984年には日本版画協会名誉会員に推挙されるなど、国際的な評価を確固たるものにしました。

晩年と没後

1996年に日本に帰国。1998年には、夫である浜口陽三の作品を常設展示する「ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション」が開館し、南桂子の作品も収蔵されています。2000年に夫を亡くし、2004年、93歳で亡くなりました。

多数の展覧会と所蔵

南桂子は、数多くの個展やグループ展に出展し、その作品は日本国内外の多くの美術館に所蔵されています。代表的な所蔵美術館としては、国立国際美術館、高岡市美術館、ニューヨーク近代美術館、ボストン美術館などがあります。

作品集

南桂子の作品集は多数出版されており、その作品世界に触れることができます。代表的な作品集として、『限定版南桂子の世界　空・鳥・水…』『南桂子全版画作品集』『ボヌール 南桂子作品集』『船の旅: 詩と童話と銅版画 南桂子の世界』などがあります。

南桂子は、激動の時代を生き抜き、独自の芸術世界を築き上げた稀有な才能の持ち主でした。彼女が残した繊細で詩情豊かな銅版画は、これからも多くの人々の心を魅了し続けることでしょう。

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