南横浜火力発電所

南横浜火力発電所（みなみよこはまかりょくはつでんしょ）は、神奈川県横浜市磯子区新磯子町に位置する、株式会社JERAが管理・運営を行う大規模な火力発電施設です。燃料として液化天然ガス（LNG）のみを使用している点が大きな特徴であり、世界のエネルギー供給における重要な一歩となった、画期的な取り組みを行なった発電所として知られています。

沿革と概要

この発電所は、1970年4月に2号機が先行して運転を開始し、同年5月には1号機、そして1973年5月には3号機がそれぞれ営業運転に入りました。これにより、合計3基の発電設備が稼働する体制が整えられました。特筆すべきは、これらの設備が当時としては画期的な、世界で初めてLNGを主たる燃料として設計・建設された火力発電所であるという点です。従来の石油や石炭に比べて環境負荷が低いとされるLNGの利用は、その後の世界の火力発電所の方向性に大きな影響を与えました。

発電に必要なLNGは、JERAが国内外から調達し、隣接する東京ガス根岸LNG基地に輸送されます。同基地において、超低温の液状であるLNGをガス状に気化させるプロセスが委託されており、発電所はこの気化された天然ガスを燃料として受け入れています。敷地は広大であり、隣接地には電源開発株式会社が運営する石炭専焼の磯子火力発電所も位置しており、この地域は多様な燃料を用いた電力供給拠点となっています。

発電設備

南横浜火力発電所は、2016年4月1日時点で総出力115万キロワット（kW）を有する主要な発電設備です。約17万平方メートルという広大な敷地に、汽力発電方式を採用した設備が設置されています。汽力発電とは、燃料を燃焼させて発生させた熱で水を蒸気にしてタービンを回し、発電機を駆動させる方式です。

各号機の設備仕様は以下の通りです。

1号機
定格出力：35万kW
使用燃料：LNG
熱効率：42.4%（低位発熱量基準）
営業運転開始：1970年5月

2号機
定格出力：35万kW
使用燃料：LNG
熱効率：42.4%（低位発熱量基準）
営業運転開始：1970年4月

3号機
定格出力：45万kW
使用燃料：LNG
熱効率：42.4%（低位発熱量基準）
* 営業運転開始：1973年5月

これらの設備は、LNGの持つ高い燃焼効率と、比較的環境負荷の低い特性を活かした設計となっています。

環境への取り組みと「横浜方式」

南横浜火力発電所が建設されたのは、根岸湾の埋立事業が進められていた時期であり、その建設地である第2期イ地区は1964年12月に完成しています。この1960年代は、日本全体で高度経済成長が進む一方で、産業活動による大気汚染が深刻な社会問題として表面化していました。特に工場や発電所が集中する都市部では、住民の健康への影響が懸念されていました。

南横浜火力発電所の建設計画が進められる中、1964年11月には地元の住民運動連絡会議が建設主体であった当時の東京電力に対し、火力発電所建設に反対の決議を行いました。これは、大気汚染への強い懸念の現れでした。こうした地域住民からの切実な声や要請に対し、当時の横浜市（市長は飛鳥田一雄氏）は、産業振興と住民の健康保護という二つの課題を両立させるための独自の道を模索します。

その結果生まれたのが、いわゆる「横浜方式」と呼ばれる公害防止協定の締結でした。これは、企業誘致を行う際に、国が定めた法律や基準よりもさらに厳しい独自の排出基準を盛り込んだ協定を、横浜市と進出企業との間で個別に締結するというものです。南横浜火力発電所も、この横浜方式に基づく厳しい環境基準をクリアすることが求められました。この方式は、自治体が企業と直接交渉し、地域の実情に合わせたより高いレベルの環境対策を実現させる先駆的な取り組みとして、全国的に注目されることとなりました。

世界に先駆けたLNG専焼技術の導入も、当時の環境問題への意識の高まりと無縁ではありませんでした。LNGは、石炭や石油に比べて硫黄酸化物や窒素酸化物の排出量が少なく、燃焼時に煤塵が発生しないため、大気汚染対策として有効な燃料とされていました。横浜方式による排出規制とLNG専焼技術の組み合わせは、環境問題が顕在化していた時代背景において、南横浜火力発電所が果たした重要な役割を示しています。

アクセス

公共交通機関を利用して発電所を訪問する場合、横浜市営バスが便利です。JR根岸線磯子駅の東口から発車する85系統のバスに乗車し、「南横浜火力発電所前」停留所で下車すると、発電所近くに到着します。

南横浜火力発電所