南海軍の歌

「南海軍の歌」は、現在のプロ野球球団・福岡ソフトバンクホークスの前身にあたる、かつて日本職業野球連盟に所属していた南海軍が使用していた初代球団歌です。作詞は山岡羊村（本名：山岡勝人）が手がけましたが、残念ながら作曲者は特定されておらず、曲の旋律も一切不明なままです。

成立の背景と歌詞の発見

この歌は、1936年（昭和11年）に創設された日本職業野球連盟へ、1938年（昭和13年）秋季リーグから新たに加わった南海軍のために作られたと考えられています。確認されている歌詞の全文は、雑誌『野球界』の1939年（昭和14年）4月号に付録として掲載された「職業野球便覧」の126ページに初めて登場しました。その後、1940年（昭和15年）に満洲で行われたリーグ戦に合わせて大連市で発行された『職業野球早わかり』にも歌詞が収められています。

旋律は謎に包まれたまま

これらの初期資料には、作詞者である山岡羊村の名前は記載されていますが、作曲者に関する情報は一切ありません。また、楽譜も掲載されていなかったため、「南海軍の歌」がどのようなメロディーを持っていたのかは、現在も全く分かっていません。同時期に存在した他の球団歌、例えば3年前に誕生した『大阪タイガースの歌』（現在の阪神タイガース球団歌『六甲おろし』とは別の曲）や、ほぼ同時期に作られた東京巨人軍（現在の読売ジャイアンツ）の初代球団歌『野球の王者』などとは異なり、「南海軍の歌」のSPレコードが制作された記録も確認されていません。このことから、2003年（平成15年）に刊行された書籍『南海ホークスがあったころ』では、歌詞だけが完成し、曲がつけられることなく未完成に終わった可能性も指摘されています。

作詞者・山岡羊村とは

作詞を担当した山岡羊村、本名・山岡勝人は長野県の出身です。彼は昭和初期に懸賞歌謡の募集情報を専門に扱う雑誌『レコード文芸』の編集・発行を手がけていたことで知られています。自身も懸賞募集で優れた成績を収めており、例えば1941年（昭和16年）には大政翼賛会が選定した「大政翼賛の歌」に入選するなど、複数の入選歴を持っていました。

南海軍が本拠地としていた関西地方とは地理的な縁が薄い山岡氏が、なぜ南海軍の球団歌を作詞するに至ったのか、その詳細な経緯は不明です。しかし、球団結成にあたって、新聞や雑誌を通じて全国規模で歌詞の懸賞募集が行われた可能性が高く、彼がその募集に応募して選ばれたのではないかと推測されています。

球団の変遷と後継の歌

南海軍は、その後のプロ野球界の歴史の中で球団名を何度か変更しています。まず、親会社である南海鉄道が関西急行鉄道と合併して近畿日本鉄道が発足したことに伴い、「近畿日本軍」へと改称。戦後のリーグ戦再開時には「近畿グレートリング」となり、1947年（昭和22年）のシーズン途中には経営が分離されたことで再び「南海ホークス」となりました。そして、パシフィック・リーグに加盟した後の1952年（昭和27年）に、新たな球団歌として「南海ホークスの歌」が制定されました。

なお、「南海軍の歌」と、1952年に制定された「南海ホークスの歌」の間には、一時期別の楽曲が存在した可能性も示唆されています。新大阪新聞社編集局長であった黒崎貞治郎氏が「梅木三郎」のペンネームで作詞し、作曲家・服部良一氏が曲をつけたという「勝利の南海ホークス」と題された楽曲です。しかし、服部氏の作品リストによるとこの曲の作曲時期が1946年（昭和21年）とされており、これは球団名がまだ「ホークス」となる以前の時期にあたるため、この点については疑問が残されています。

このように、「南海軍の歌」は歌詞こそ確認されているものの、その旋律が完全に失われたままの、まさに「幻の球団歌」と言える存在です。その詳細は多くの謎に包まれており、プロ野球史における貴重な研究対象の一つとなっています。

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