南部信直

南部信直：南部氏中興の祖、盛岡藩の礎を築いた武将

南部信直は、戦国時代から安土桃山時代にかけて陸奥国で活躍した、南部氏第26代当主にして戦国大名です。南部氏を再興した功績から中興の祖と呼ばれ、後に盛岡藩の藩祖となる重要な人物として知られています。彼の生涯は、複雑な家督相続争いや豊臣秀吉との外交、そして領国経営にまつわる数々の出来事によって彩られています。

家督相続：複雑な経緯と北信愛の尽力

信直は天文15年（1546年）、南部政康の次男である石川高信の庶長子として誕生しました。その後、南部晴政の長女と結婚し、婿養子となりました。しかし、晴政に男子（南部晴継）が生まれたことで、信直は次第に冷遇されるようになります。晴政の長女が亡くなると、相続を辞退する事態にまで発展しました。

晴継が家督を継ぎましたが、若くして亡くなったため、後継者問題が発生。一門郎党による大評定が開かれました。南部家には、相続人がいない場合は八戸家から養子を迎える慣習がありましたが、当時の八戸家は自身も困難な状況にあったため、難しい状況でした。有力候補として、晴政の次女の夫である九戸実親の名前が挙がりましたが、北信愛という家臣が、信直こそが適任であると主張。その手腕と、晴継の姉婿という立場を強調し、八戸政栄も信直を支持しました。信愛の積極的な働きかけにより、信直は三戸城に迎えられ、第26代当主となりました。相続時期は永禄8年（1565年）あるいは天正10年（1582年）と諸説あります。

豊臣政権下での外交と領国経営

信直は、豊臣秀吉への接近を図るため、秀吉と深い信頼関係にあった前田利家との交流を深めました。天正14年（1586年）頃からの交渉記録が残っており、以降、前田利家が秀吉との間を取り持つ重要な役割を果たしました。

信直の実父、石川高信の死後、弟の石川政信を津軽郡代として浪岡城に配置していましたが、天正16年、政信が急死し、津軽為信の反乱が発生。信直は救援に動こうとしましたが、九戸氏らは動かず、八戸政栄が派遣されましたが、浪岡城は陥落しました。

小田原征伐の際には、領内の警備を案じた信直は、八戸政栄に領地の留守を託そうと相談を持ちかけました。しかし、政栄は、九戸氏や津軽氏の動向を考慮し、直参の礼を辞退。信直の忠誠心に感銘を受けた信直は、涙ながらに感謝し、単身出陣しました。秀吉に謁見した信直は、津軽が既に為信のものとなっていたことを知ります。秀吉は、代わりに志和、和賀、稗貫、岩手、閉伊の五郡を加増することで対応しました。これにより領地は拡大したものの、石高自体は変化しませんでした。

天正19年（1591年）の九戸政実の乱では、秀吉から大規模な援軍が派遣されました。九戸城攻めで苦戦した浅野長政は、策略を用いて政実を降伏に追い込みましたが、約束を反故にして政実以下を処刑するという悲劇的な事態を引き起こしました。

文禄元年（1592年）の朝鮮出兵には、病身を押して名護屋城に参陣しましたが、交渉の停滞により帰国しました。

晩年と盛岡城築城

帰国後は、築城や城の廃城など領内の基盤強化に尽力。蔵入地拡大政策の一環として新田村を蔵入地化し、年貢米の収納システムを構築しました。

九戸戦後、浅野長政から盛岡城築城の助言を受け、信直自身も盛岡城の建設に意欲的でした。朝鮮出兵の影響で認可が遅れましたが、慶長3年頃に認可を得たと推測されています。慶長2年末には秀吉の了解を得て、整地を始め、翌年に認可の朱印状を得て帰国。しかし、その翌年、信直は54歳で亡くなりました。盛岡城は、跡継ぎの南部利直によって完成しました。

信直の死後も、盛岡城は南部氏の拠点として発展し、信直の功績は、南部氏中興と盛岡藩の基礎を築いたものとして、現在も語り継がれています。

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