単一欧州議定書

単一欧州議定書（SEA）とは、1986年に調印され、1987年に発効した、欧州共同体（EC）の歴史において重要な転換点となる議定書です。この議定書は、ローマ条約を大幅に修正し、単一欧州市場の創出と、欧州政治協力の枠組みを正式に確立しました。

1980年代の欧州共同体：課題と背景

1980年代のECは、域内における自由貿易の促進という重要な課題に直面していました。各国間の貿易障壁、法制度の不統一、政策の食い違いなどが、域内市場の統合を阻む大きな要因となっていました。経済界や政治界からは、これらの問題点を解消し、市場の統合を進めるための抜本的な改革を求める声が強まっていました。

欧州委員会の白書とSEAの策定

欧州委員会は、この状況を踏まえ、ヨーロッパにおける共通市場の可能性とその実現に向けたロードマップを分析し、詳細な内容をまとめた白書を発表しました。この白書は、単一市場実現に向けた具体的な方策を示すものであり、SEAの策定に大きく貢献しました。

SEAの主要な内容：単一市場実現への道筋

SEAでは、単一市場の成立には以下の3点が不可欠だとされました。

1. 各国間の障壁の撤廃: 関税や非関税障壁といった、貿易を阻害するあらゆる障壁を取り除く必要がありました。
2. 制度面の調整: 各国の法律や規制を統一・調和させ、共通のルールを整備する必要がありました。
3. 欧州各国の競争力向上: 各国の産業の競争力を高め、単一市場における競争に耐えうる体制を整える必要がありました。

また、SEAでは、ECの意思決定プロセスにおける効率性を高めるため、欧州連合理事会における特定多数決の適用範囲を拡大しました。これは、重要な政策決定における迅速な合意形成を促進するものでした。

さらに重要な点として、SEAは単一市場の完成期限を1992年と明確に定めました。この期限設定は、加盟各国に改革への強い圧力をかけ、具体的な行動計画を促す役割を果たしました。

そして、後のEUの共通外交安全保障政策（CFSP）の基礎となる「欧州政治協力」の概念が、SEAによって正式に導入されました。これは、加盟国間の政治的な協力関係を強化し、共通の外交政策を推進するための枠組みです。

SEAの締結と発効

SEAは、1986年2月17日にルクセンブルク市で、そして2月28日にハーグで調印されました。その後、ドロール委員会の下で審査を経て、1987年7月1日に正式に発効しました。

SEAの意義

SEAは、単一欧州市場の創出に向けた重要な第一歩となりました。その後のEUの統合プロセスにおいても、SEAは大きな礎となり、今日のEUの繁栄と安定に大きく貢献しています。SEAは、単一市場という具体的な目標を設定し、その実現に向けた具体的な方策を示すことで、欧州統合を大きく前進させました。また、欧州政治協力の概念を導入したことで、加盟国間の政治的連携を強化し、EUの外交力向上にも貢献しました。

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