欧州政治協力

欧州政治協力（EPC）: 欧州統合における外交政策協力の歩み

1970年代初頭、欧州共同体（EC）加盟国は、域内市場統合に続く新たな段階として、外交政策分野での協調を模索していました。幾度かの失敗を経て、1970年に誕生したのが欧州政治協力（European Political Cooperation、EPC）です。EPCは、加盟国政府間の非公式な協議に基づく枠組みであり、超国家的な機関による政策決定とは一線を画していました。

EPC設立の背景には、1950～60年代における欧州統合の試行錯誤がありました。特に、超国家的な性格を持つ欧州防衛共同体（EDC）構想の失敗は、加盟国間の主権意識の高さを改めて示しました。しかし、冷戦構造下における安全保障環境の変化や、拡大するECにおける政治的統合の必要性から、外交政策分野での協力は不可欠なものとなりつつありました。

EPCは、政府間主義的なアプローチを採用していました。これは、加盟国政府間の合意に基づいて政策が決定されることを意味し、欧州委員会のような超国家機関の権限は限定的でした。この点において、EPCはフランスのド・ゴール政権下の「フランスの威厳」を重視する姿勢にも合致していました。また、イギリスの関与により、EPCには大西洋主義的な要素も加わりました。

EPCの運営は、当初は非公式な政府間協議によって行われていました。しかし、1973年のコペンハーゲン報告書、1981年のロンドン報告書などを通して、徐々にその制度は強化されていきました。1986年の単一欧州議定書では、EPCは正式にECの基本条約に組み込まれ、その法的基盤が確立されました。

EPCは、その活動において「混合した成功」を収めました。1970年代には、中東紛争への対応や、全欧安全保障協力会議（CSCE、後の欧州安全保障協力機構：OSCE）の設立において、EPCの枠組みが重要な役割を果たしました。これらの事例は、加盟国間の協調による外交的成果を示すものでした。

しかし、1979年のソ連のアフガニスタン侵攻や、1991～95年のユーゴスラビア紛争においては、EPCの限界が明らかになりました。迅速かつ効果的な対応が求められる状況において、政府間協議に基づくEPCの意思決定プロセスは、遅延や不一致を生じやすく、その効果的な対応を阻害しました。

EPCは、その政府間主義的な性格ゆえに、欧州委員会との関係においても複雑な問題を抱えていました。欧州委員会は、EC条約で権限が与えられている分野については、EPCの政策決定プロセスに意見を表明する権利を持っていましたが、その影響力は必ずしも大きくありませんでした。オランダなどは、EPCが欧州委員会と競合しかねないことを懸念していました。

結局、EPCは当初構想されていたような、パリに強力な事務局を置く体制にはなりませんでした。これは、加盟国間の主権意識の高さと、政府間主義的なアプローチの限界を示すものでした。

1993年に発効したマーストリヒト条約では、EPCは共通外交・安全保障政策（CFSP）に発展的に解消されました。CFSPは、EPCよりも明確な法的根拠と、より強力な意思決定メカニズムを持つものでした。これは、EPCの経験を踏まえ、欧州の外交政策における効果的な協調体制を構築しようとする試みでした。EPCは、欧州統合における外交政策協力の歴史の中で重要な一歩であり、その成功と失敗は、後のCFSPやEUの外交政策に大きな影響を与えました。

参考文献

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Holland, M. (ed.) (1991), The Future of European Political Cooperation: Essays in Theory and Practice, Basingstoke: Macmillan.
Pijpers, A. et al (eds.), European Political Cooperation in the 1980s: A Common Foreign Policy for Western Europe?, Dordrecht: M. Nijhoff.
Regelsberger, E., De Schoutheete de Tervarent, P. & Wessels, W. (eds.) (1997), Foreign Policy of the European Union: From EPC to CFSP and Beyond, London: Lynne Rienner.
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