博士たちの間のキリスト

アルブレヒト・デューラーの油彩画『博士たちの間のキリスト』は、1506年に制作され、現在マドリードのティッセン＝ボルネミッサ美術館に所蔵されています。この作品は、デューラーがヴェネツィア滞在中に、祭壇画『薔薇冠の祝祭』の制作と並行して、わずか5日間で完成させたとされています。ただし、制作前に多くの素描が描かれており、入念な準備がされていたことが伺えます。

画面左下の書物に挟まれた紙には「1506」の年記があります。デューラーが親友ヴィリバルト・ピルクハイマーに宛てた手紙によると、『薔薇冠の祝祭』と並行して「私がかつて描いたことのないような、もう1枚の絵」を完成させたことが記されており、その絵こそが本作であると考えられています。

主題は、新約聖書ルカによる福音書にある、幼少期のイエス・キリストが神殿で学者たちと議論する場面です。デューラーは以前にもこの主題を木版画や祭壇画で描いていますが、本作では横長の構図を採用し、7人の人物が画面全体を占めています。この構図は、ヴェネツィア派の画家チーマ・ダ・コネリアーノの同主題の作品からの影響が見られ、デューラー自身が「私がかつて描いたことのないような」と述べるほど斬新なものでした。

本作は、ヴェネツィア派の巨匠ジョヴァンニ・ベッリーニに贈られた可能性も指摘されています。ベッリーニの家でこの作品を見たロレンツォ・ロットは、自身の作品にデューラーの『博士たちの間のキリスト』の登場人物を模倣したとされています。

イエスの左側に描かれた人物は、デューラーが見たレオナルド・ダ・ヴィンチの絵画に触発された似顔絵であると考えられています。また、左下隅の男性はパリサイ人の慣習であるベレー帽を被り、カルトゥーシュを持っています。一方、右側の人物は、ジョヴァンニ・ベッリーニの絵画からの引用であると推測されています。

このように、『博士たちの間のキリスト』は、デューラーの独自の画風と、イタリア・ルネサンス美術の影響が融合した、非常に興味深い作品です。デューラーの卓越した描写力と、革新的な構図が、この作品を傑作としています。

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