即興曲第3番 (フォーレ)

即興曲第3番 変イ長調 作品34

即興曲第3番 変イ長調 作品34は、フランスの作曲家ガブリエル・フォーレ（Gabriel Fauré）が1883年に完成させたピアノ独奏のための楽曲です。彼の比較的初期の作品に位置づけられますが、すでに彼独自の音楽語法、特に和声の探求と洗練された抒情性が融合した魅力が明確に現れています。

楽曲は単一楽章で構成され、速度標語はAllegro（アレグロ）、拍子は4分の2拍子で記されています。形式的には、伝統的なロンド形式を基盤としながらも、ソナタ形式における展開や再現といった要素が巧みに組み込まれており、「ソナタ形式に近いロンド形式」と評される独特な構造を持っています。

この作品の最も際立った特徴の一つは、フォーレが追求した先進的な和声と、彼本来が持つ優雅で落ち着いた気品が見事な均衡を保っている点にあります。大胆でありながらも耳に心地よい和声進行が、楽曲全体に洗練された雰囲気を纏わせています。

冒頭では、左手が16分音符による流れるようなアルペジオを奏で、変イ長調の主和音に基づいたAs-Es-As-CやF-Des-B-Asといった響きが反復されます。この上で、右手はD-Es-F-As-G-B-Asという歌謡的な性格を持つ旋律を奏でます。この開始部では、左手のアルペジオの中に、変イ長調の和音に含まれない非和声音、例えばE、A、Hといった音が精緻な計算のもとに組み込まれています。これらの非和声音の使用は、響きに微妙な色彩変化と奥行きを与えつつも、決して耳障りにならず、曲全体の気品ある雰囲気を損なわないよう巧みに処理されています。これは、フォーレの和声書法の特徴がよく表れている部分と言えるでしょう。

楽曲は展開を経て、提示部で示された主要な旋律や動機が変奏されたり、異なる調で再現されたりします。特に、第2主題は再び姿を現し、楽曲に統一感を与えます。形式上の再現部を経て、曲はコーダへと向かいます。コーダでは、冒頭の第1主題が再び登場しますが、ここでは半音階的な進行が用いられ、一瞬の不安定さや内省的な陰りが加わります。

終結部は、それまでの気品ある流れに加えて、煌びやかさと同時にどこか神秘的な響きを帯びています。この絶妙な雰囲気の中で、静かに楽曲の幕が閉じられます。即興曲第3番は、フォーレのピアノ作品の中でも比較的よく知られた作品であり、その形式的な独創性、先進的な和声、そして彼ならではの洗練された美しさが凝縮された傑作として、多くの人々に愛されています。

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