厚木たか

厚木たか（あつぎ たか）

日本の記録映画作家、厚木たか（1907年3月3日 - 1998年5月19日）は、激動の20世紀を、記録映画を通して見つめ続けた人物です。群馬県に生まれ、日本女子大学を卒業後、1930年に日本プロレタリア映画同盟に参加し、映画制作の世界に入りました。彼女の初期の活動は、社会主義的な視点から労働者の生活や社会問題を捉えることに重点が置かれていました。

記録映画作家としての歩み

厚木たかのキャリアは、記録映画の制作にとどまらず、脚本や構成など、多岐にわたっています。構成を担当した『或る保姆の記録』（1942年）は国民映画賞を受賞し、その才能を広く知らしめました。また、脚本を担当した『オートメーション ―限りなき前進―』（1968年）は、日本産業映画コンクール奨励賞を受賞。さらに、『われわれは監視する—核基地横須賀—』（1975年）は、モスクワ映画祭平和委員会賞、ライプツィヒ国際記録・短編映画祭金鳩賞を受賞するなど、国際的にも高い評価を得ました。

これらの作品は、単なる記録映像ではなく、社会の矛盾や問題点を深く掘り下げたもので、観る者に強い印象を与えました。特に、戦後の社会情勢や労働問題、基地問題など、その時代を象徴するテーマを扱い、ドキュメンタリー映画の可能性を追求したと言えるでしょう。

プロレタリア運動から社会派ドキュメンタリーへ

厚木たかは、プロレタリア映画運動の初期から参加し、その経験が彼女の作品に大きな影響を与えました。戦後の社会状況の変化とともに、彼女の関心はより広範な社会問題へと移っていきます。しかし、一貫して社会の不平等や矛盾を告発する姿勢は変わりませんでした。彼女の作品は、常に弱者の視点に立ち、社会の歪みを鋭く批判するものでした。

文筆活動

映画制作と並行して、厚木たかは文筆活動にも力を注ぎました。雑誌へのエッセイや座談会への参加を通じて、映画運動の理論的な側面にも貢献しています。特に、「映画展望」誌に掲載された「映演スト・二つの意義」や、研究誌『現代と思想』での座談会「プロキノの活動」など、当時の映画運動の動向を伝える貴重な記録です。また、著作として『それでもなお私は働く』や『女性ドキュメンタリストの回想』を出版し、自身の映画制作の経験や考えを後世に伝えました。

結婚と家族

厚木たかは、一時期、哲学者の森宏一と結婚していましたが、後に離婚しています。本名は芳賀松枝で、アメリカで左翼活動を展開した芳賀武が夫でした。彼女の人生は、社会運動と深く結びついており、その視点は、作品に色濃く反映されています。

晩年とその遺産

厚木たかは、1998年にその生涯を閉じましたが、彼女の作品は現在も多くの人々に感動を与え続けています。記録映画作家としての彼女の功績は、日本のドキュメンタリー映画史において重要な位置を占めており、その作品は、今もなお、社会の現実を見つめ、問題意識を喚起する力を持っています。彼女の作品は、単なる記録映像ではなく、社会の矛盾や問題点を深く掘り下げたもので、観る者に強い印象を与えます。社会派ドキュメンタリーの先駆者として、厚木たかの名前は、映画史に永遠に刻まれるでしょう。

主なフィルモグラフィ

『或る保姆の記録』（1942年） - 構成
『転換工場』（1944年） - 脚本
『わたし達はこんなに働いている』（1945年） - 構成
『少女たちの発言』（1948年） - 脚本
『善太と三平』（1955年） - 脚色
『どこかで春が』（1958年） - 脚本
『東京オリンピックへの道』（1963年） - 脚本
『オートメーション ―限りなき前進―』（1968年） - 脚本
『われわれは監視する—核基地横須賀—』（1975年） - 脚本
『セロ弾きのゴーシュ』（1982年） - 製作

主な著作

『それでもなお私は働く』（1966年）
『女性ドキュメンタリストの回想』（1991年）

主な訳書

『文化映画論』（1938年）
『ドキュメンタリィ映画』（1960年、1976年）

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