原亨和

日本の現代化学界において、触媒化学分野で顕著な業績を挙げている人物として、原 亨和（はら みちかず）が挙げられます。彼は1965年3月7日、神奈川県横浜市に生まれました。現在、東京工業大学において物質理工学院超機能物質講座およびフロンティア材料研究所融合機能応用領域の教授を務めています。

原氏の学術的なキャリアは、東京理科大学理学部化学科での学びから始まりました。同大学を1986年に卒業後、東京工業大学大学院総合理工学研究科電子化学専攻に進み、1992年に博士課程を修了しました。学位取得後、一度は株式会社東芝に入社し、研究開発センターにて実務経験を積みました。しかし、アカデミアへの情熱から、1996年には東京工業大学資源化学研究所に助手として着任しました。その後、1999年には米国のペンシルベニア州立大学に博士研究員として滞在し、国際的な研究環境での知見を深めました。帰国後、2000年には東京工業大学資源化学研究所の助教授に昇進。2006年には応用セラミックス研究所の教授となり、研究教育活動の中心的な役割を担うようになりました。大学の組織改編を経て、2016年からは現在の物質理工学院およびフロンティア材料研究所の教授を務めています。

原氏の研究は、環境負荷の低減やエネルギー問題の解決に貢献する革新的な触媒の開発に焦点を当てています。特に注目される業績の一つは、2005年に開発に成功した、硫酸に匹敵する酸強度を持つ固体触媒の製造法です。従来の液体酸触媒に代わる固体触媒は、取り扱いが容易で、触媒分離・回収プロセスの簡略化や廃棄物削減に繋がることから、化学産業におけるグリーン化に大きく貢献する技術として期待されています。

さらに、アンモニア合成に関する研究でも画期的な成果を上げています。アンモニアは肥料の原料などとして広く利用されますが、その合成（ハーバー・ボッシュ法）は高温・高圧を必要とするエネルギー多消費型のプロセスです。原氏は、この課題に対し、より温和な条件下で効率よくアンモニアを合成できる触媒の開発に取り組みました。2016年には、従来の触媒と比較して反応効率が10倍以上となる低温アンモニア合成触媒の開発に成功しました。この成果は、アンモニア製造におけるエネルギー消費を大幅に削減する可能性を秘めています。続く2017年には、このアンモニア新合成法をさらに高速化する新たなエレクトライド触媒を見出しました。エレクトライドは、アニオン（陰イオン）として電子が結晶構造の隙間などに閉じ込められている特殊な物質であり、触媒としての特異な機能が注目されています。原氏によるエレクトライド触媒の発見は、アンモニア合成プロセスのさらなる効率化、ひいてはエネルギー・環境問題への貢献を一層強化するものです。

原氏の優れた研究業績は、国内外で高く評価されています。2003年には東京工業大学挑戦的研究賞を受賞し、学内でのその独創的な研究姿勢が認められました。2006年には、米国の科学誌サイエンティフィック・アメリカンが選出する、科学技術分野で顕著な業績を上げた世界の50人・組織、「5th Scientific American 50」に選出される栄誉に浴しました。これは、彼の研究成果が世界的な影響力を持つことを示すものです。国内では、2012年に文部科学大臣科学技術賞（開発部門）を受賞。これは、日本の科学技術の振興に資する優れた開発や研究成果に与えられる賞であり、原氏の研究が実用化や社会貢献に繋がる可能性を持つことが評価されたと言えるでしょう。また、2014年には日本化学会より第31回学術賞を授与されており、化学分野における学術的な貢献度が認められています。

原氏は、専門分野における知見の共有や発展のため、日本化学会、触媒学会など、主要な学術団体に所属し、活発に活動を行っています。また、専門書の一部を執筆するなど、研究成果の普及や後進の育成にも貢献しています。

原亨和氏は、触媒化学、特に環境・エネルギー分野への応用を目指した革新的な触媒材料の開発において、世界をリードする研究者の一人です。固体酸触媒や低温アンモニア合成用エレクトライド触媒に関する一連の成果は、今後の化学産業やエネルギーシステムのあり方に大きな影響を与える可能性を秘めています。東京工業大学教授として、教育研究活動を通じて日本の科学技術の未来を担う人材育成にも力を注いでおり、その今後のさらなる活躍が期待されています。

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