原全教

原 全教

日本の登山家、原 全教（はら ぜんきょう、1900年5月18日 - 1981年11月）は、特に奥秩父山塊に対する非凡な愛着と深い造詣をもって知られています。その著作は、単なる登山ガイドにとどまらず、地域の歴史、文化、人々の暮らしにまで光を当てた貴重な記録として、今なお多くの読者に影響を与えています。

生涯

原全教は1900年、石川県金沢市川除町に坂部武二として生を受けました。8人兄弟姉妹の次男でした。1917年に神田電機学校（現在の東京電機大学）を卒業後、同年から雲水としての修行に入り、北陸地方を行脚しました。その後、東京市役所の都市計画課に勤務しますが、1943年に退職しています。また、1937年からの2年間は兵役につき、満蒙へ出征しました。

戦後、彼は様々な職に就きます。目黒で謄写印刷業を営む『謄友社』を開業し（後に会社組織となり現在も存続）、次に「新宿バーテンダースクール」で講師を務めました。さらに、目黒区自由が丘にトリスバー「アイガー」を開店。その後、亡くなるまで渋谷区恵比寿駅近くで焼き鳥バー「すず」を経営しました。没後、店は嫡男である原信彦氏が引き継ぎましたが、再開発による立ち退きまで営業が続けられました。

登山活動と業績

原全教の登山活動は、特に奥秩父山塊へと深く傾倒していきました。木暮理太郎、田部重治といった先達に続いて、1925年頃からこの山域に足繁く通い始めます。彼は奥秩父の雄大な自然景観だけでなく、そこに息づく古い習俗、史実、そして人々の温かい情けといった、多岐にわたる側面に強い関心を寄せました。その探求は非常に深く、一般的な紀行文とは一線を画すものでした。

原の奥秩父に対する非凡な愛着と深い研究は、詩人の尾崎喜八をして彼を「秩父の王子」と呼ばしめるほどでした。その集大成ともいえる著作『奥秩父 正・続』は、奥秩父に関する総合的な情報源として、まさに決定版と呼ぶにふさわしい内容であり、「空前絶後の山書」として高く評価されています。彼はまた、元奥武蔵研究会の顧問も務めていました。

主な著作

原全教は奥秩父をはじめとする地域の自然と文化に関する多くの著作を世に送り出しました。中でも代表作は以下の通りです。

『奥秩父 正・続』（朋文堂） - 奥秩父研究の決定版と評される。
『奥秩父』（朋文堂、昭和17年出版） - 上記の増補改訂版とされる。
『奥秩父研究』（朋文堂）
『多摩・秩父・大菩薩』（朋文堂）
『東京附近の谷歩き』（朋文堂）
『奥秩父回帰』（河出書房新社）

また、以下の書籍に寄稿や執筆を行っています。

『秩父山塊』（三省堂）
『登山講座』（山と渓谷社）
『文学に見る日本の川』（日本週報社）

未完の著作

志半ばで完成に至らなかった著作も複数存在します。これは不運な出来事や戦禍によるものでした。

『山寺の歴史（仮）』 - スポンサーの急逝により企画が頓挫しました。
『東京附近の谷歩き（続編）』 - 戦火により原稿が焼失しました。
『上越のスキー登山』 - 戦火により原稿が焼失しました。
『冬の南アルプス』 - 戦火により原稿が焼失しました。
『東京附近の山歩き』 - 出版元の明正堂書店社長、木村孝一氏の急逝により中断しました（原稿は現存している可能性が示唆されています）。

関連人物

彼の活動や研究は、奥秩父を深く愛し、その魅力を探求した他の登山家や研究者とも関連が深いです。

木暮理太郎
田部重治

原全教は、その生涯を通じて奥秩父への深い愛情を貫き、多角的な視点からその魅力を掘り起こしました。彼の著作は、日本の山岳文化、特に特定の地域に対する深い探求の重要性を示す貴重な遺産となっています。

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