厭魅の如き憑くもの

『厭魅の如き憑くもの』

三津田信三による『厭魅の如き憑くもの』は、彼の刀城言耶シリーズの第一長編作品であり、日本の推理小説とホラーの要素が見事に融合しています。本作は、2006年に原書房から発売され、その後2009年に文庫版が講談社から刊行されました。

この小説の設定は、昭和30年代前半の日本。物語は、神々櫛村という特殊な地域を舞台に展開されます。ここは古くから多くの神話や伝説が息づく場所で、多くの人々が神隠しや不可思議な出来事に遭遇してきました。特に、神々櫛村に伝わる「厭魅」と呼ばれる存在は、何世代にもわたって村人たちを恐れさせてきた忌まわしい化け物で、その姿は組笠と蓑をまとったものとして語られています。

物語の中心にいる刀城言耶は、神々櫛村の歴史や伝承に触れながら、次第に彼の周囲で発生する奇怪な事件に巻き込まれていきます。物語の冒頭では、憑依の儀式が行われ、村人たちがその承認のもとに異変を体験します。その中で、「憑座」と呼ばれる存在である紗霧が、特定の依代を流す儀式を行う際、奇妙な視線を感じて背後を振り返る場面が描かれ、恐怖の兆しが漂います。

そして、言耶が村を訪れた直後から、続々と発生する怪死事件。村人たちが次々に謎の死を遂げ、死体は「カカシ様」という神の姿をして発見されます。最初は山伏の小佐野膳徳が遺体となり、次に別の村人である勝虎や国治、絹子、勇もまた同じ様子で見つかります。これらの出来事は、どこかおかしな因果関係がありそうで、言耶はそれを解明するために動き出します。

作品の評価は高く、ミステリ評論家の千街晶之は「徹底した本格ミステリ」と称賛し、ホラーとしての恐怖感も強調しています。小説家の柴田よしきも、三津田が描くホラーと本格推理の融合が極まっていると評価しています。読み進めるうちに、最後のどんでん返しに驚かされる読者も多く、ミステリーの魅力が凝縮されています。

登場人物たちも個性的です。主な登場人物には神櫛家の人々や、巫女であり憑座の役割を果たす双子の姉妹、叉霧と捺霧がいます。また、神隠しにあった女児や、伝承に関わる民間学者も物語を引き立てるキャラクターです。特に、刀城言耶の父親や村人たちとの関わりが物語に深みを与えており、その背景には戦後の日本社会が反映されています。

本作は、単なるホラー小説や推理小説に留まらず、文化や地域の伝承、家族の絆、恐怖の根源を探る哲学的なテーマが織り込まれています。読者は物語を通じて、忘れられた歴史に触れると同時に、人々が持つ恐怖と信仰の複雑な感情を感じることができるでしょう。日本の文学における新たな名作として、ぜひ手に取ってほしい一冊です。

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