友情 (小説)

小説『友情』について

概要

『友情』は、武者小路実篤が1919年から1920年にかけて執筆した小説で、初出は『大阪毎日新聞』に連載された後、1920年4月に単行本として刊行されました。この作品は、友情、愛情、葛藤が交錯する人間関係を描き出し、当時の文壇で確固たる地位を築いた作者の思いが込められています。実篤は、作品の執筆にあたり、新しき村での生活から得た感情を元に、若者たちの恋愛や結婚に寄せる祝福の気持ちを表現したとされています。

執筆の背景

本作が書かれた当時、武者小路は幾つかの小説や戯曲によって文学界において高い評価を受けていました。そして、新しき村に移り住んだことが、作品の背景に大きく影響しています。1920年に単行本として重版された際、作者は「この小説は新しき村の若者たちが今後経験するであろう様々な感情に対して、祝福と力を与えたいとの思いから書かれた」と語っています。このように、作品は彼の理想や思想が色濃く反映されたものと言えます。

あらすじ

物語は、新進気鋭の脚本家・野島が、作家の大宮と強い信頼関係を築きながら進行します。彼らはお互いを尊敬し合い、自身の作品に磨きをかけています。大宮は既に高く評価されている存在であり、野島はそんな彼に勇気づけられながら日々を過ごしています。

ある日、野島は友人・仲田の妹である杉子に恋をします。この気持ちを大宮に打ち明けると、彼は親身になってサポートしてくれます。杉子と過ごす時間が増えるにつれ、野島は彼女からの温もりを感じますが、一方で大宮は彼女に対して冷淡さを見せます。ある時、大宮がヨーロッパへ旅立つことを告げ、野島は友人との別れの寂しさと杉子を独占する安心感に悩まされます。このような葛藤が野島の心に影響を与えていきます。

数ヶ月後、野島は杉子にプロポーズしますが、彼女から断られてしまいます。それからしばらくして、杉子が突然ヨーロッパに旅立つことに。大宮から野島に届いた一通の手紙には、彼が執筆した小説に杉子に対する思いが綴られていました。それを読んだ野島は、大宮との友情に亀裂が入ることになります。彼は大宮に贈った大切なベートーヴェンのデスマスクを破壊し、「決闘しよう」と書き送ります。このように、友情と愛情の間で揺れ動く二人の関係が作品の核となっています。

登場人物

• - 野島：主人公で23歳の脚本家。恋愛感情を抱く杉子に深い思いを寄せている。
• - 大宮：野島の親友で26歳の脚本家。内心で杉子に想いを寄せるが、友情を優先して迷いを抱える。
• - 杉子：16歳の仲田の妹。無邪気であるが、野島をあまり好まない一方、大宮に恋心を抱く。
• - 仲田：杉子の兄で法科生。恋愛について野島と意見が食い違う一面も。
• - 村岡、早川、武子など他の登場人物も物語に色彩を添え、友情の複雑さを際立たせています。

この作品は、友情の深さと愛情の本質を探求するものであり、当時の文化と感情を反映した重要な作品と言えるでしょう。

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