双腺綱

双腺綱（Secernentea）は、線形動物門に属する重要な分類群の一つです。この綱に分類される線形動物たちは、その身体的な特徴、特に尾部にある感覚器官である尾乳頭を多数持っていること、そして体内の排出器官の側面に特定の溝状の構造があることによって識別されます。これらの形態的な特徴は、他の線形動物との分類において重要な手がかりとなります。

双腺綱を含む全ての線形動物に共通する基本的な生物学的性質として、循環器系と呼吸器系を持たないことが挙げられます。彼らの体内での酸素や栄養素の輸送は、体内の液体（偽体腔液）の動きや細胞間での拡散によって行われます。体は一般的に円筒形をしており、丈夫なクチクラという外皮で覆われています。このクチクラは、成長の各段階で定期的に脱ぎ捨てられる（脱皮）ことで、体の成長を可能にしています。

この綱には、ヒトや動物、植物に寄生する多くの種が含まれており、中には医学的、獣医学的、あるいは農業的に大きな問題を引き起こすものも存在します。特に、桿線虫亜綱（Rhabditia）と旋尾線虫亜綱（Spiruria）には、寄生性の重要な種が多く見られます。例えば、ヒトの腸に寄生する代表的な寄生虫であるカイチュウ（回虫）はカイチュウ目（Ascaridida）に属します。また、糞線虫（カンセンチュウ目 Rhabditida の一部）、フィラリア（旋尾線虫目 Spirurida）、鉤虫や糞線虫の一部（エンチュウ目 Strongylida）なども、双腺綱に含まれる寄生性の線虫であり、世界中で健康被害や家畜の病気を引き起こしています。

一方で、双腺綱には寄生生活を送らない自由生活性の種も含まれており、科学研究の分野で非常に重要な役割を果たしているものも存在します。その最も有名な例が、桿線虫亜綱のカンセンチュウ目に属するカエノラブディティス・エレガンス（Caenorhabditis elegans）です。この小型の線虫は、その細胞レベルでの発生過程が完全に追跡できること、神経系の構造が比較的単純でありながら機能の研究に適していること、ゲノム情報が詳細に解析されていることなどから、発生学、神経科学、遺伝学、細胞生物学といった幅広い分野でモデル生物として広く研究されています。C. elegansの研究は、多くの生命現象の基本的なメカニズムを理解する上で不可欠な貢献をしています。

双腺綱は、伝統的に以下の三つの亜綱に分類されてきました。

桿線虫亜綱 (Rhabditia)
カイチュウ目 (Ascaridida)
カンセンチュウ目 (Rhabditida)
エンチュウ目 (Strongylida)
旋尾線虫亜綱 (Spiruria)
カマラヌス目 (Camallanida)
センビセンチュウ目 (Spirurida)
ディプロガスタ亜綱 (Diplogasteria)
ヨウセンチュウ目 (Aphelenchida)
ディプロガスタ目 (Diplogasterida)
* クキセンチュウ目 (Tylenchida)

最近の分子系統解析などにより、伝統的にカンセンチュウ目の一部として扱われてきた線虫の中には、クキセンチュウ目（Tylenchida）により近縁である可能性が示唆されているグループも存在します。もしクキセンチュウ目が独立した目として認められ続けるならば、これらの近縁なグループはこのクキセンチュウ目に含まれることが考えられています。これらの線虫は、尾部に一対の側尾腺（phasmid）と呼ばれる感覚器官を持っていることから、「Phasmidian」という総称で呼ばれることもあります。側尾腺は、線虫が環境中の化学物質や物理的な刺激を感知するための重要な器官であると考えられています。

このように、双腺綱は形態的な特徴によって定義される分類群であり、その内部には寄生性の重要な種から、生命科学研究の基盤となるモデル生物まで、多様な生態と重要性を持つ線形動物が含まれています。

もう一度検索