反出生主義

反出生主義とは

反出生主義（はんしゅっしょうしゅぎ、またはアンチナタリズム）は、生殖行為を道徳的に非難する立場を指し、興味深い哲学的議論や社会的運動を引き起こしています。この思想は、古代から現代に至るまで、多くの思想家や文化に影響を与えてきました。

概要と定義

反出生主義は大きく二つの分野に分けられます。一つは「誕生否定」、これは現に生まれた人間の存在を否定する思想であり、もう一つは「出産否定」、新たに生命を生み出すこと自体を否定する見解です。特に21世紀において、デイヴィッド・ベネターといった哲学者がこの立場を支持し注目されるようになりました。ベネターの「誕生害悪論」は、人生は生まれること自体に対する害を伴うと論じ、生殖の停止による人類の段階的な絶滅を訴えています。

日本における反出生主義

日本では、反出生主義という言葉は、英語の「antinatalism」が訳語として用いられるようになり、特に2010年代以降に広まりました。2011年にはウィキペディアにおいてこの概念が紹介され、その後様々なメディアで特集されることでますます認識されていきました。ただし、日本においては特に「誕生否定」に重きを置いた理解がされやすいとされています。

哲学者たちの視点

アルトゥル・ショーペンハウアー

ショーペンハウアーは、人生は苦しみに満ちているとし、子供を生み出さないことが最も合理的な選択であると主張しました。彼の考えでは、人間の欲望は常に満たされることがなく、その移ろいゆく状態が苦しみを生むとされます。

ピーター・ウェッセル・ザプフェ

ザプフェは、子供は出生地や親を選ぶことができないため、同意なく生まれることが倫理的に問題であると述べました。彼は人間の発達した意識が、かえって人々を苦しみへと導いていると考えています。

デイヴィッド・ベネター

ベネターによる「快苦の非対称性」の論点は、苦痛が存在することは悪であり、快の不在は悪くないとするものです。これに基づいて生まれる義務についての非対称性を示し、倫理的に生まない選択が優先される理由を説明しました。

反出生主義の心理的要素

心理学的研究では、反出生主義は心的健康やダークトライアド性格特性（精神病質やマキャヴェリズム）と関連性があることが示されています。反出生主義的な考えが、うつ病によってさらに高まるというデータが存在します。

宗教との関わり

反出生主義の考え方は、宗教的にも過去のさまざまな教えに影響を受けています。特にグノーシス主義や仏教の教義において、出産や生の苦しみについての警鐘が鳴らされています。

文学と反出生主義

文学作品の中でも反出生主義的なテーマが見られます。芥川龍之介や太宰治の作品に、出産や生きることの苦しみについての考察が確認できます。また、近年のフィクションでも、この思想を取り入れた作品が増加しています。

結論

反出生主義は、存在の苦痛や倫理的な見解に対しての深い考察を促す重要な思想です。この思想は、私たちが生きる上でどうありたいか、や、生まれることの意味について再考させる契機となります。今後もさらなる議論と理解が求められることでしょう。

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