反客為主

反客為主（はんかくいしゅ）

反客為主は、三十六計の第三十計に数えられる計略です。「客を返して主（あるじ）と為す」と訓読され、その意味は、一旦は客の立場、つまりは従属する立場となり、その内部から徐々に勢力を拡大し、最終的には主人の立場を奪い取るというものです。これは、敵の内部に入り込み、時間をかけて支配権を掌握する狡猾な戦略と言えるでしょう。

この計略は、短期的な成果を求めるのではなく、長期的な視点に立って実行されるべきものです。敵に警戒心を与えないように、表面上は従順な態度を保ちつつ、水面下で着々と準備を進めることが重要となります。

事例

反客為主に該当する事例として、歴史上有名なものをいくつか紹介します。

劉邦と項羽

秦の滅亡後、楚の項羽と漢の劉邦が覇権を争いました。当初、項羽の軍事力は圧倒的であり、劉邦は劣勢に立たされていました。劉邦は、一旦は項羽に臣従する形を取り、その支配下に入ります。しかし、劉邦はただ従属していたわけではありません。項羽の専横に対して表向きは忍従しつつも、左遷された漢中で密かに兵力を蓄え、力を養いました。そして、機が熟したと判断すると、項羽に対して反旗を翻し、最終的には項羽を滅ぼして天下を統一しました。

司馬懿と曹魏

三国時代の魏の重臣であった司馬懿も、反客為主に成功した人物として知られています。司馬懿は、曹操の配下となり、その才能を高く評価されて重用されました。しかし、司馬懿は野心を抱いており、魏の皇室を簒奪しようと企てていました。そのため、警戒心の強い曹操によく仕え、その信頼を得ることに努めました。曹操の死後、子の曹丕、孫の曹叡も司馬懿を重用しましたが、曹丕、曹叡が短命のうちに逝去したこともあり、司馬懿の権力はますます強大になっていきました。

曹叡の死後、幼い皇帝が即位すると、皇族の曹爽が政治の実権を握りました。曹爽は、司馬懿を名誉職に祭り上げて権力の座から排除しようとしましたが、司馬懿はこれを好機と捉え、クーデターを計画します。249年、司馬懿は郭太后を利用してクーデターを仕掛け、曹爽一派を粛清し、政権を掌握しました。さらに、251年には曹爽のような皇族の専横の再発を防ぐためとして、皇族の曹氏をすべて鄴に軟禁しました。こうして、司馬懿は魏の実権を完全に掌握し、その基盤を固めました。そして、司馬懿の孫である司馬炎の代になって、ついに魏からの簒奪を完成させ、晋を建国しました。

まとめ

反客為主は、敵の内部に入り込み、時間をかけて主導権を奪い取るという、非常に狡猾な計略です。この計略を実行するには、表面上は従順な態度を保ちつつ、水面下で着々と準備を進める必要があります。また、敵の警戒心を解き、油断させることも重要です。反客為主は、必ずしも成功するとは限りませんが、成功すれば、敵を完全に支配下に置くことができる強力な戦略と言えるでしょう。

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