反知性主義

反知性主義についての考察

反知性主義（はんちせいしゅぎ）、または反主知主義（反主知主義）は、知識や知的活動に対して抱かれる否定的感情や敵意を表す思想を指します。この用語は、1904年に言葉として確立されたとされていますが、その思想の根は19世紀末の哲学者、特にニーチェやベルクソンの考え方にまでさかのぼります。反知性主義は、知的権威やエリート主義への懐疑から生まれたものであり、実用的な解決や現実を理解するためには知力や理性的なアプローチは必ずしも必要ではないという信念が根底にあります。

反知性主義の歴史的背景

アメリカにおいて反知性主義が顕著に表れたのは、特に1950年代のマッカーシズムや大統領選挙においてです。知的な背景を持つ候補者が、有力な支持を得ることができず、むしろ大衆の感情に訴える人物が成功を収めたことが、その象徴的な事例となっています。リチャード・ホフスタッターはこの時期のアメリカ社会における反知性主義を深く考察し、アメリカ史全体を通じて重要なテーマであることを示しました。彼は『アメリカの反知性主義』という著作を通じて、この概念の広がりとその背景にある大衆の不安感に焦点を当てています。

知性に対する反感

反知性主義の特徴として、知力や理性よりも感情や意志が優先されるという点があります。これは、特定のエリート層による知識の固定化に対する反発でもあり、一般市民が持つ素朴な判断力を重視する立場から生じます。大衆は、自分たちの感覚や感情に基づいて判断することができると考え、その知識が必ずしも専門家やエリートにひけを取らないという認識に至ります。

アメリカの民主主義と反知性主義

アメリカの独立宣言に「すべての人は平等に創られた」という言葉があり、これが反知性主義に関連しています。一般市民が持つ道徳感覚は、必ずしも高度な教育によらずとも生得的に備わっているという信念が、民主主義の基盤となっているのです。また、ホフスタッターはこの考え方が、労働者階級がエリート層に対する特権的立場からの反発を表すものと捉えています。

日本における反知性主義

日本における反知性主義は、アメリカのように明確に表れることは少なく、しばしば「半知性主義」として現れます。知識に対する尊重が薄く、実用的な知識が重視される文化の中で、反知性主義は特に目立たない存在でした。これは、特定の知識人層や教養主義に対する反感が高まる中で、あらゆる問題を「知っている」とされる人々が非難の的となる様子として表れています。

反知性主義の議論は、近年の議論の中でその定義が曖昧にされやすく、知性そのものを否定するものと誤解されがちですが、実際には特定のエリートや知識人への批判的な視点が強調されています。従って、反知性主義は単なる反知識の姿勢ではなく、知識の権力構造に対する批判の一環であると言えるでしょう。意志や感情が知識の代わりに重視される現代において、このテーマは今もなお重要な問題として残っています。

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