受取人不明

韓国映画『受取人不明』：1970年代の韓国の村で交錯する運命

2001年公開の韓国映画『受取人不明』（原題：수취인불명）は、第58回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に選出された、キム・ギドク監督による重厚な人間ドラマです。1970年代の米軍基地が隣接する韓国の片田舎を舞台に、複雑な過去や社会状況に翻弄される若者たちの姿が描かれています。

物語の中心となるのは、3人の若者です。一人目は、アメリカ人兵士との間に生まれた混血児、チャングク。彼は犬商人を手伝いながら、母親と二人で慎ましい生活を送っています。母親はアメリカにいるチャングクの父親に手紙を送りますが、返ってきたのは「受取人不明」の印が押された手紙でした。この出来事が、チャングクの人生に大きな影を落とします。

二人目は、ウノク。彼女は朝鮮戦争で父親を亡くし、母親の内職と父親の遺族年金で生活しています。幼い頃に遊んでいたおもちゃの銃で右目を失明した彼女は、米軍基地内の病院で治療を受けたいと願っており、高校で英語を必死に勉強しています。

三人目は、チフム。彼は米軍基地内の病院で働く父親の肖像画専門店を手伝っており、そのため高校には通っていません。ウノクに好意を抱いていますが、アメリカかぶれの不良少年たちに学校に通っていないことを嘲笑され、苦悩を抱えています。

この3人の若者たちの生活は、貧困や差別、そしてアメリカ軍基地の存在という複雑な社会状況と深く結びついています。チャングクは混血児であることで、社会から常に偏見の目を向けられ、孤独を感じています。ウノクは、戦争によって家族を失った過去と、視覚障害というハンディキャップを抱えながら懸命に生きています。チフムは、父親の家業を継ぎながらも、自分の将来に不安を抱き、社会から認められたいという強い願望を持っています。

映画は、これらの若者たちの生活を淡々と、しかし深く描写することで、1970年代の韓国社会の暗い一面を浮き彫りにします。彼らの苦悩や葛藤、そしてささやかな希望が、静謐な映像と、抑制された演技によって繊細に表現されています。

『受取人不明』は、単なる社会派ドラマにとどまらず、人間の尊厳や生きることの意味を問いかける、普遍的なテーマを内包した作品です。それぞれの登場人物が抱える複雑な感情や背景が丁寧に描かれ、見る者の心に深く刻まれる、忘れがたい感動を与えてくれます。キム・ギドク監督独特の、静けさの中に潜む強烈な力を感じることができるでしょう。

この映画は、第21回韓国映画評論家協会賞で脚本賞（キム・ギドク）、第39回大鐘賞で助演女優賞（パン・ウンジン）を受賞するなど、高い評価を得ています。韓国映画史に残る名作として、ぜひ鑑賞していただきたい作品です。

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