古志の松原

古志の松原（こしのまつばら）

富山県富山市の岩瀬から浜黒崎にかけて、富山湾に沿って続く松並木、それが古志の松原です。この松原は、単なる自然の景観にとどまらず、歴史と文化が深く息づく場所でもあります。特に、県の天然記念物に指定されている「浜黒崎の松並木」は、その象徴的な存在と言えるでしょう。

概要

古志の松原は、旧上新川郡東岩瀬町から旧上新川郡浜黒崎村横越に至る、約2里に及ぶ海岸線に沿って広がっています。その起源は、慶長6年（1601年）に加賀藩主前田利長が植樹を命じたことに遡ります。この松原の名称は、1934年（昭和9年）に当時の帝国美術院長、正木直彦によって命名されました。

1939年（昭和14年）には史蹟名勝天然紀念物に、1965年（昭和40年）には富山県天然記念物に指定され、その価値が公に認められました。さらに、1999年（平成11年）には北日本新聞社によって「二十一世紀へ残したい富山百選」にも選ばれています。

古志の松原から望む立山連峰の雄大な姿は、富山県商工会議所によって「立山あおぐ特等席」の一つとされています。また、社団法人日本の松の緑を守る会による「日本の白砂青松100選」にも選ばれており、その美しさは広く知られています。古くは「越中舞子」とも呼ばれ、その海岸美は「須磨明石に比すべき」とまで評されてきました。さらに、塩害や飛砂を防ぐ高度公益機能森林としても重要な役割を果たしています。

歴史

古志の松原の歴史は古く、承元元年（1207年）には、親鸞が越後へ配流される際に、この地を通ったとされています。その際、彼は一本の松の下で休息を取り、その松は「親鸞上人腰掛けの松」と呼ばれるようになったと伝えられています。この松は、現在、富山県指定天然記念物「浜黒崎の松並木」のうち22号として現存しています。

慶長6年（1601年）には、加賀藩によって主要な官道に沿って松が植樹されました。浜黒崎の松並木は、この時に「浜街道」沿いに植えられたものです。また、東岩瀬駅が新たに駅宿に指定された背景には、富山藩が富山の町を譲り受けたことに伴い、新たな街道を整備する必要があったことが挙げられます。これにより、古志の松原沿いを通り、東岩瀬町から浜黒崎、そして西水橋町辻ヶ堂へと続く道が北陸街道となりました。

明治41年（1908年）には、旧森林法によって保安林に指定され、大正11年（1922年）には、史蹟名勝天然紀念物調査会委員の三好学博士がこの地を訪れ、浜黒崎の松並木が天然記念物にふさわしいと評価しました。昭和9年（1934年）には、正木直彦によって「古志の松原」と命名され、その記念碑も建てられました。昭和14年（1939年）には、浜黒崎の松並木が正式に史蹟名勝天然紀念物に指定され、その歴史的価値が認められました。

戦時中には、軍需のために伐採の危機に瀕しましたが、地元の人々の尽力により難を逃れました。昭和35年（1960年）には新森林法により再び保安林に指定され、保護が強化されました。

昭和40年（1965年）には、浜黒崎の松並木44本が富山県指定天然記念物に指定されました。その後、1974年（昭和49年）には「古志の松原を守る会」が結成され、この貴重な自然を守る活動が続けられています。

また、昭和57年（1982年）からは、富山県道375号富山朝日自転車道線の整備が開始され、古志の松原内を通るサイクリングロードが整備されました。

伝承

古志の松原には、数々の伝承が残されています。

親鸞聖人腰掛けの松: 浄土真宗の開祖である親鸞が、越後へ流される際に休憩したと伝えられる松で、樹齢は約600年と推定されています。
源義経鎧掛けの松: 源義経が奥州へ逃れる際に、鎧を掛けたとされる松がありましたが、現在は失われています。
飛び団子の伝説: 古志の松原に住む魔物を、大村城主轡田豊後守が退治する際に、神の助けで団子が空から飛んできて、力を得て魔物を倒したという伝説です。この伝説にちなんだ「飛び団子」は、現在も岩瀬で販売されています。
根上り松: かつては、浸食により根が露出した「根上り松」が古志の松原の名物でしたが、戦時中に伐採され現存しません。

公共交通

古志の松原へのアクセスは、富山地方鉄道富山港線岩瀬浜駅から、富山県道1号富山魚津線に沿って走るフィーダーバスが利用できます。最寄りの停留所は、岩瀬浜停留場または浜黒崎キャンプ場停留所です。

古志の松原は、歴史と文化、そして美しい自然が調和した場所です。訪れる人々に安らぎと感動を与え、その価値は今もなお、多くの人に愛され続けています。

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