司令部付勤務員 (国家人民軍)

東ドイツ軍の司令部付勤務員（Kommandantendienst）制度：憲兵的役割と歴史的背景

東ドイツ国家人民軍において、司令部付勤務員（Kommandantendienst, KD）制度は、独特の役割を担っていました。のちには軍巡邏員（Militärstreife）とも呼ばれたこの制度は、他国の憲兵と類似した任務を遂行したものの、独立した組織や兵科としてではなく、一般将兵が交代で勤務に当たるという特殊な形態をとっていました。

KDの任務内容は多岐に渡りました。パレードなどの公式行事における厳重な警備、シュヴェート軍事刑務所での看守業務などがその代表例です。勤務時間は厳しく、通常時は24時間、週末は48時間にも及ぶ過酷なものでした。勤務中は、KDの身分と権限を示す白い装備、例えば斜革付きベルト、ホルスター、制帽やヘルメットに装着する白い帯や覆いなどを着用していました。この独特の装備は、彼らを他の兵士と明確に区別する視覚的な印となりました。

この制度が、独立した憲兵組織としてではなく、一般将兵の職務の一環として位置づけられていた点に注目すべきです。これは、第二次世界大戦における旧国防軍の野戦憲兵隊の戦争犯罪への関与という暗い歴史的反省に基づいているとされています。国家人民軍は、過去の過ちを繰り返さないため、憲兵組織の常設化を避け、一般将兵による交代制という、より透明性の高い体制を選択したと考えられます。

KD制度の起源は、ソ連軍の司令部付勤務員制度（Военная комендатура）に遡ります。これは、ロシア革命で解体されたロシア帝国憲兵団の後継として設立された制度であり、ソ連軍における憲兵的役割を担っていました。ソ連崩壊後も、2010年にロシア連邦軍に憲兵隊（Военная полиция России）が正式に編成されるまで、この制度は存続していました。

さらに、東ドイツ以外のワルシャワ条約機構加盟国でも、同様の名称を持つ憲兵的組織や役職が存在したという記録が残っています。これは、冷戦下の社会主義陣営における共通の軍事的慣習を示唆するものであり、KD制度が東ドイツ独自の現象ではなく、広範な地政学的背景を持つ制度であったことを示しています。

結論として、東ドイツ軍の司令部付勤務員制度は、その任務、組織形態、そして歴史的背景において、他の国の憲兵制度とは異なる特徴を持っていました。第二次世界大戦の教訓を踏まえつつ、ソ連軍の制度を参考に構築されたこの制度は、国家人民軍の維持と安定に重要な役割を果たしたと言えるでしょう。しかし、その過酷な勤務時間や、一般将兵への負担という側面も考慮する必要があるでしょう。KD制度は、東ドイツの歴史と冷戦期の軍事的体制を理解する上で、重要な一側面を提示する存在なのです。

参考文献

Rüdiger Wenzke, ed. (2013), Ulbrichts Soldaten: Die Nationale Volksarmee 1956 bis 1971 (ドイツ語) (1 ed.), ISBN 3-86-15369-6X。
Rüdiger Wenzke, ed. (2013), Ab nach Schwedt!: die Geschichte des DDR-Militärstrafvollzugs (ドイツ語) (2 ed.), ISBN 3-86-15363-82。

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