各個教会主義

各個教会主義とは

各個教会主義は、主にバプテスト派に特徴的な教会のあり方を指します。その起源は清教徒やアナバプテストの思想に遡ると考えられています。この主義の根幹には、信仰が個人の内面に深く関わるものであり、宗教に関する事柄は一人ひとりが自らの良心に基づいて判断すべきだという個人主義の考え方があります。この考えに基づき、洗礼は、個人が自らの信仰を明確に告白した上で、全身を水に浸す浸礼という形式で行われます。

各個教会の位置づけ

個人と信仰との関係性を重視する姿勢は、教会の組織のあり方にも影響を与えています。すなわち、個々の教会こそが信仰生活の基盤であると考えられ、その重要性が強調されます。牧師の選任といった重要な決定も、それぞれの教会自体に委ねられています。

合同体（連盟）との関係

とはいえ、各個教会単独では困難な活動、例えば広範囲にわたる伝道協力、出版事業、社会奉仕活動のための委員会設立などを目的として、教会同士が連携し、連盟のような合同体を形成することもあります。しかし、このような合同体において、上位組織が個々の教会に対して命令したり、権力を行使したりすることは原則としてありません。各個教会が持つ自律性は厳格に守られるべきであるとされています。また、各個教会は、十分な検討と祈りの上で、明確な理由があれば、連盟への支援を打ち切ったり、連盟から脱退したりする自由を持っています。これは、合同体があくまで個々の教会の集合体として成り立っているのであり、合同体が教会を支配する構造ではないという考え方に基づいています。

具体的な活動と各個教会主義のせめぎ合い（南部バプテスト連盟の例）

各個教会主義が、共同での活動においてどのように影響するかを、南部バプテスト連盟の事例を通して見てみましょう。

協力伝道における課題

信仰大覚醒の時期に、プロテスタント諸派の間で、国内外への宣教、社会事業、教育機関設立などを目的とする組織が数多く設立されました。南部バプテスト連盟内でも同様の組織が創設され、熱心に支援する教会や個人がいた一方で、組織による伝道活動に反対する「反ミッション主義者」も存在しました。反ミッション主義者たちは、宣教活動そのものに反対していたのではなく、個人や各個教会による伝道こそが新約聖書に基づく形だと強く主張し、組織伝道との間に深刻な対立を生じさせました。19世紀初頭の著名な反ミッション主義者ジョン・テイラーは、組織が運営する神学校や宣教活動が、本来の精神から外れ、組織運営に偏っていると厳しく批判しました。この対立は教会間に様々な反応を引き起こしました。反ミッション主義に共感する者、協力伝道への不満から結果的に反ミッション主義的な立場を取る者、そして組織の一致を乱すとして反ミッション主義者との関係を断つ者などが現れ、連盟内部の調和が乱れる時期がありました。

社会奉仕活動における制約

各個教会主義が社会奉仕活動にどう影響するかを、南部バプテスト連盟の社会奉仕委員会の事例から考察します。この委員会は当初、禁酒運動を中心に活動していましたが、禁酒法批准後、世界平和、人種関係、経済秩序といったより広範な社会問題にも関心を向けるようになりました。委員会は社会問題への貢献を目指しつつ、各個教会の自由という原則に配慮する必要がありました。個人主義とは対立しないことを表明し、禁酒や安息日遵守など特定の倫理問題には明確な立場を示しましたが、平和や人種問題といった複雑な社会問題については、一般的な内容に留まりました。活動方法も、各個教会間で意見の一致が困難な問題では大きく制限されました。委員選任の課題や予算不足もあり、委員会は具体的な活動や十分な議論が困難で、活動の大半は年次報告書の作成でした。1947年には常設化され予算も増えましたが、各個教会主義に起因する意見の多様性や合意形成の難しさといった根本的な制約条件は依然として残りました。

まとめ

各個教会主義は、個人の信仰と各個教会の自律性を重んじる原則です。この原則は、合同体の権限を制限し、教会の自由を守る一方で、共同での活動や大規模な組織運営においては、意見の多様性からくる制約や合意形成の難しさといった課題を生じさせることがあります。

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