吉岡専造

吉岡 専造

吉岡専造（よしおか せんぞう）は、1916年12月15日に生まれ、2005年5月2日に逝去した日本の著名な写真家です。特に戦後日本のジャーナリズム写真分野において、重要な役割を果たした人物として記憶されています。朝日新聞社の写真部では、大束元、船山克と共に「三羽烏」と称されるほど、その写真家としての力量は高く評価されていました。

彼のキャリアにおける特筆すべき点の一つは、当時の内閣総理大臣であり、一般的に「写真嫌い」として知られていた吉田茂を度々撮影し、個人的な親交を深めたことです。これは、写真家としての技術だけでなく、吉岡の誠実な人柄を示すエピソードとして語り継がれています。

経歴

吉岡の経歴は、写真との深い関わりから始まります。1939年、東京高等工芸学校（現在の千葉大学工学部）の印刷科写真部選科を修了後、同年中に朝日新聞東京本社に入社し、編集局写真部に配属されました。

初期のキャリアでは報道写真家として活動し、1940年には中国大陸の戦線での取材を敢行しました。第二次世界大戦中は、1942年に海軍報道班員、1944年には陸軍報道班員として、戦地の状況を記録する任務に就きました。

戦後、1947年に出版局の出版写真部へと異動します。ここでは、報道写真とは異なる、よりテーマ性や芸術性の高い写真表現に取り組む機会を得ました。1959年には同部の部長に就任し、組織運営と後進の育成にも携わります。1971年に朝日新聞を定年退職した後も、フリーランスの写真家として精力的に活動を続けました。退職翌年の1972年には、宮内庁からの依頼を受け、昭和天皇の肖像写真（御影）を撮影するという、写真家として非常に名誉ある大役を務め上げました。

吉田茂との特別な関係

吉岡専造と吉田茂元首相の間の特別な関係は、昭和25年（1950年）頃に始まりました。ある時、取材で吉田邸を訪れた吉岡に対し、吉田本人が「辛抱強くチャンスを狙って良い写真を撮る吉岡君の人柄に魅せられた」と語ったことが、二人の親交が深まる決定的なきっかけとなったとされています。写真撮影に対して協力的ではなかったことで知られる吉田茂が、一写真家、しかも当時まだ若手であった吉岡にこのように語り、撮影を許したことは、吉岡の人間的な魅力と、写真家としての真摯な姿勢を示す逸話として語り継がれています。吉岡は、この特別な関係を通じて、吉田茂の公的な顔だけでなく、その人間的な一面や素顔を写真に収めることに成功しました。これらの写真は、歴史的な記録としても、また写真作品としても、現在も高く評価されています。

受賞歴と主な写真集

吉岡専造は、その長年の活動と優れた作品に対して、いくつかの主要な賞を受賞しています。

毎日写真賞特別賞（1957年）
日本写真協会功労賞（2003年）

また、彼の主要な作品は、写真集として出版されています。

『人間零歳』（1960年、二見書房）: 人間の内面や生活に焦点を当てた初期の代表作。
『吹上の自然』（1980年、朝日新聞社）: 昭和天皇の御影撮影に関連し、吹上御苑の自然を捉えた作品集。
* 『写真集 吉田茂』（2004年、吉田茂国際基金）: 吉田茂元首相の様々な姿を収めた、長年の撮影活動の集大成ともいえる写真集。

吉岡専造は、激動の昭和史の中で、報道写真、そして人間を深く見つめる写真の両面において重要な貢献を果たしました。特に吉田茂との関係を通じて生み出された作品群は、日本の近現代史を視覚的に捉える上で、非常に貴重な資料となっています。その誠実な写真への取り組みは、多くの人々に影響を与え続けています。

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