吉崎航

吉崎 航

吉崎 航氏は、1985年に山口県で生まれた日本のロボット研究者です。彼は特に、ロボットの多様な動きを滑らかかつ直感的に実現する制御ソフトウェア「V-Sido OS」の開発者として知られています。現在、ソフトバンクグループ傘下のアスラテック株式会社にて技術開発部チーフロボットクリエイターを務めており、ソフトウェアの側面から先進的なロボット技術の開発をリードしています。

経歴とV-Sidoの開発

吉崎氏の技術キャリアは、徳山工業高等専門学校の情報電子工学科から始まり、その後、千葉大学工学部の情報画像工学科へ編入し、専門性を深めました。さらに、奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科に在籍しながら、産業技術総合研究所での技術研修生として実践的な研究活動に携わりました。

彼の名を一躍有名にしたのが、ロボット制御ソフトウェア「V-Sido」の開発です。大学院在学中の2009年、経済産業省所管の情報処理推進機構（IPA）が推進する未踏IT人材発掘育成事業に採択されたことが、V-Sido開発の大きな契機となりました。このプロジェクトで開発されたV-Sidoは、人型ロボットだけでなく様々な形状のロボットに対し、複雑な関節制御やバランス制御を容易に実現することを可能にする画期的なソフトウェアでした。その成果は高く評価され、翌2010年にはIPAより「スーパークリエータ」の認定を受けています。

巨大ロボット「クラタス」との協働

同時期、吉崎氏はアーティストの倉田光吾郎氏が主宰するプロジェクト「水道橋重工」が進めていた巨大搭乗型ロボット「クラタス」の開発に参画します。彼はこの巨大ロボットの複雑な姿勢制御や移動を実現するための心臓部として、自ら開発したV-Sidoを応用。約4メートルにも及ぶ鉄の塊を、滑らかかつダイナミックに動かすことに成功しました。クラタスは2012年に幕張メッセで開催されたワンダーフェスティバルで初披露され、その革新的な存在感は国内外で大きな注目を集めました。同年には日本科学未来館でも公開され、多くの人々に驚きを与えました。クラタスは技術的な成果だけでなく、文化的な側面からも評価され、2013年には文化庁メディア芸術祭のエンターテイメント部門で優秀賞を受賞しています。吉崎氏と倉田氏の協働は、単なる研究開発の枠を超え、アートとテクノロジーが融合したユニークな事例となりました。

事業化とアスラテックでの活動

V-Sidoとクラタスでの成功を受けて、吉崎氏は自身の技術をより広く社会に展開するため、2013年2月に株式会社V-Sidoを設立します。そして同年7月には、ソフトバンクが出資するアスラテック株式会社にチーフロボットクリエイターとして参画。ここでは、V-Sido OSを中核としたロボットソフトウェア事業の本格的な展開を目指しました。2014年には新規ロボット事業発表会でV-Sido OSを中心としたソフトウェアプラットフォーム戦略を発表し、様々なロボット開発者や企業への技術提供を進めています。

近年の活動

近年も吉崎氏はロボット技術の可能性を追求し続けています。2022年には、バンダイナムコグループが推進する「ガンダムプロジェクト」の一環である「ガンダムオープンイノベーション」に、自身のチーム「BALL」として採択されました。これは、人気の高いIPであるガンダムをテーマに、サステナブルな社会実現に資する技術やアイデアを募集するものであり、吉崎氏がアニメやエンターテイメントの世界と現実のロボット技術を結びつける新たな試みに挑戦していることを示しています。

吉崎航氏は、V-Sido OSという独自の制御技術を武器に、巨大ロボット開発というインパクトのあるプロジェクトを成功させ、さらにその技術を事業として展開してきました。ソフトウェアの重要性が増す現代のロボット開発において、彼の貢献は日本のロボティクス分野における重要な一翼を担っています。

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