吉橋大師講

吉橋大師講とは

吉橋大師講（よしはしだいしこう）は、千葉県八千代市吉橋を中心とした地域で、かつて盛んに行われていた巡礼の講です。四国八十八箇所霊場を模した88ヶ所の札所を巡るもので、「吉橋組大師講」や「吉橋大師」とも呼ばれます。この講の特徴は、札所が寺院だけでなく、神社にも設けられている点です。

概要

吉橋大師講は、吉橋周辺の集落住民によって構成されていました。巡拝は通常、毎年春と秋の彼岸後に3日から5日間かけて行われました。巡礼には、先達のほか、「南無大師遍照金剛」と書かれた幟を持つ旗持ち、鉦叩きなど、役割分担がありました。参加者は、白衣に輪袈裟、菅笠という揃いの姿で、導師とともに隊列を組んで歩きました。

札所では、地元住民による「お接待」が行われ、餅や総菜、菓子などが振る舞われました。これに対し、巡礼者は歌や踊りで返礼しました。お接待の費用は講の参加者から支払われ、酒は参加者が持ち込むのが慣習でした。宿泊は、札所のある本堂や周辺住民の家に分宿しましたが、近隣の参加者は一旦帰宅し、翌朝再び合流していました。

札所の配置は、分割・再編の経緯や、廃仏毀釈、宅地化の影響などで複雑になり、同じ敷地内に離れた番号の札所が点在することも珍しくありません。そのため、現在でも札所番号順に巡拝することはほとんどありません。

歴史

吉橋大師講の起源は、1807年（文化4年）に吉橋の貞福寺住職である存秀が、下総四郡八十八ヶ所を開設したことに始まります。この下総四郡とは、千葉郡、印旛郡、葛飾郡、相馬郡を指し、現在の八千代市、習志野市、白井市、船橋市、市川市、松戸市、柏市にまたがる広範囲に札所が設けられました。

1841年（天保12年）に作成された御詠歌帳から、この頃までに下総四郡八十八ヶ所が吉橋大師と東葛印旛大師に分割・再編されたことが確認できます。この分割・再編が、後の吉橋大師の原形となりました。

慶応から明治初期にかけて、札所のある寺院には絵馬や額の奉納が盛んに行われました。特に、能満寺と観行院に奉納された八十八ヶ所札所大絵馬は、船橋市の指定文化財となっています。現存する名簿から、昭和初期には500人以上、終戦直後には1000人以上の参加者がいたことがわかっています。

しかし、1995年に講の活動休止が発表されました。その後、2005年から翌年にかけて、吉橋大師開設200周年記念事業として、有志による集団巡礼が10回に分けて行われ、貞福寺に絵馬が奉納されました。現在は、個人や小規模グループによる巡礼が行われています。

関連事項

小金牧: 下野牧の周辺地域を巡礼する。

参考文献

八千代市史編さん委員会『八千代市の歴史資料編民俗』
船橋市史編さん委員会『船橋市史民俗・文化財編』
鎌ケ谷市教育委員会『鎌ケ谷市資料編民俗』

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