小金牧

小金牧（こがねまき）とは

小金牧は、江戸幕府が現在の千葉県北西部の台地上に設置した軍馬育成のための放牧場です。広大な敷地で馬が飼育され、江戸時代の軍事や農業に重要な役割を果たしました。

概要

小金牧は、享保期以降、以下の五つの牧で構成されていました。これらの牧は「小金五牧」とも呼ばれ、江戸時代初期から明治2年まで存続しました。

高田台牧
上野牧
中野牧
下野牧
* 印西牧

これらの牧では、自然繁殖の半野生の馬「野馬」が飼育されていました。毎年、野馬を捕獲する「野馬捕」という行事が牧の重要な年中行事でした。捕獲された馬の中から良馬が選抜され江戸に送られ、残りは農民に払い下げられました。

沿革

千葉県北部は古くから軍馬育成の地として知られ、『延喜式』にも牧の記述が見られます。その起源は、蝦夷征伐時の軍馬供給に遡ると推定されています。また、香取神宮や鹿島神宮との関連も深く、歴史的に重要な地域でした。

文武天皇の時代には、この地域で馬の飼育が始まったという伝承があります。続日本紀にも牧地の設置に関する記述があり、これが根拠とされています。

『平家物語』に登場する名馬「池月」もこの地域産で、柏市には池月を呼んだとされる「呼塚」という地名が残っています。また、相馬野馬追で有名な福島県相馬地方にも、小金牧と共通する野馬土手などの遺構が残っています。

牧の制度

牧を管理する役人は「牧士」と呼ばれ、武士の身分を与えられ、刀を帯びることも許されていました。牧士は、文武天皇の時代に設けられた職制で、その名前は古代からの起源を示しています。江戸幕府が小金牧を正式に設置したのは慶長年間とされ、特に慶長19年に牧士頭が任命されたと記録されています。

初期の牧士頭は、千葉氏や高城氏の旧臣が任命されました。その後、地元の名主などが牧士に任じられるようになりました。享保年間以降は、綿貫家が世襲で牧士頭を務め、野馬奉行として牧の管理を行いました。

牧の改革

享保期には、代官の小宮山杢之進によって牧の統廃合が行われ、野田の庄内牧が廃止され、鎌ヶ谷の一本椚牧が中野牧に統合されました。その結果、五つの牧となりました。

小宮山はまた、牧内の新田開発と検地も行い、牧の規模を縮小しました。これによって、江戸や東京へ薪炭を供給する地となりました。

徳川吉宗は、ペルシャ馬を輸入し、房総の牧に配布しました。また、陸奥の白川から牝馬を導入し、小金牧での馬の飼育を奨励しました。牧士の編成も改革され、目附牧士や勢子頭が設けられました。

寛政期には、牧が小納戸頭取の岩本正倫の支配下に入り、経費削減や植林が行われました。

牧の構造

小金牧は、各牧の周囲に野馬土手と呼ばれる土手が築かれていました。野馬除土手は、馬が逃げ出して農地を荒らすのを防ぐために、二重構造になっており、その間に野馬堀と呼ばれる堀がありました。勢子土手は牧内で馬を誘導するための土手で、囲土手は馬を集める捕込の周囲に築かれていました。

捕込は、馬を捕獲する場所で、各牧の端に設けられていました。捕込は、馬を捕獲し、水を補給し、移動を楽にするために、各牧の端、街道と谷津頭の近くに作られました。捕込は約200メートル四方で、3つの区画に分かれていました。

牧の中には、馬の脱走を防ぐための木戸が設けられていました。

各牧について

庄内牧

野田市にあった牧で、他の牧より早く廃止されました。野田市役所では「荘内牧」と表記されています。

上野牧

柏市と流山市に広がっていた牧で、小金牧の中で最も古く、重要視されていました。野馬奉行屋敷や水戸家の旅館があり、水戸街道が通っていました。捕込跡地は柏二小となっています。

高田台牧

柏市高田・西原にあった牧で、上野牧と接していました。明治以降、三井組が直接土地を所有し、入植者が小作農になることが多く、柏飛行場や陸軍の施設が置かれた場所でもありました。

中野牧

松戸市、柏市、鎌ヶ谷市、白井市に広がっていた牧で、小金牧の中で最大の牧でした。将軍の乗馬を飼育し、鹿狩の舞台となりました。金ヶ作陣屋が置かれ、幕府の直轄地として重視されました。初富駅近くには、捕込が現存します。

下野牧

船橋市、八千代市、習志野市、千葉市にまたがる広大な牧でした。成田街道が通り、明治時代には陸軍の演習場となり、習志野原と呼ばれました。

印西牧

印旛郡にあった牧で、他の牧から離れて位置していました。他の牧に比べて土手が少なく、現存する遺構は少ないです。しかし、牧と新田の境界に多くの「作」の地名が残っています。

廃止と開墾

1868年、新政府は牧の開墾の方針を示し、1869年に牧は廃止されました。牧の跡地は東京府管轄となり、三井組などの開墾会社によって開墾が行われました。開墾にあたっては、入植者への搾取や土地の奪取などの問題も発生しました。

開墾によって、多くの非出資入植者が小作農となり、少数の大地主や地主が生まれました。また、野馬土手やその隣接地域は公有地となり、軍用地や公共施設の用地として利用されました。開墾地には、ほぼ集落ごとに神社が建立されました。

地名

小金牧の周辺には、馬、駒、木戸、土手、堀など牧に因んだ地名が多く残っています。「込」は、馬が集まる場所を指し、「木戸」は牧の出入口を指します。「作」は、牧の縁にあることを示すことが多いです。開墾された地域には、初富、二和、三咲、豊四季、五香、六実など、入植順につけられた地名があります。

現代の小金牧

小金牧の跡地は、宅地化や農地化が進みましたが、一部には野馬土手や捕込の遺構が残っています。これらの遺構は、小金牧の歴史を伝える貴重な文化遺産として保存されています。

現在も、牧場の名残である施設や、競馬場などが存在しています。

また、かつては、森林が少なかった地域ですが、現在では土手に雑木林が再生し、都市の緑地空間としての役割も果たしています。

まとめ

小金牧は、江戸時代から明治維新にかけて、軍馬育成や地域経済に重要な役割を果たした場所です。その歴史、構造、そして明治維新後の開墾まで、さまざまな視点から理解を深めることができます。現在では、そのほとんどが宅地化、農地化されていますが、一部にはその名残を見ることができます。

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