吉田たすく

吉田たすく：伝統と革新を織りなす染織家

吉田たすく（1922-1987）は、鳥取県倉吉市を拠点に活躍した、日本の染織家であり、絣紬研究の第一人者です。廃れかけていた伝統的な織物技法「組織織」と「風通織」を丹念な研究と試織によって復元し、更には独自の技法「たすく織」「綾綴織」を開発するなど、日本の染織界に多大な貢献を果たしました。

芸術に囲まれた生い立ちと民藝運動の影響

たすくは、文化が栄えた倉吉市の医師の家系に生まれました。祖父や養祖父は西洋医学を学び、文化人として知られた人物でした。また、実家は芸術家たちのサロンとして知られ、河井寛次郎や柳宗悦といった民藝運動の中心人物も訪れるなど、たすくは幼い頃から豊かな芸術環境に囲まれて育ちました。

倉吉には大正時代から「砂丘社」という芸術文化団体が存在し、たすくもこの団体に所属し、多様な芸術家たちと交流を深めました。戦後間もない混乱期には、砂丘社の仲間たちと「創作郷土玩具発表会」を開催し、人々の心を癒やしました。民藝運動の思想や、版画家で民藝運動に関わっていた長谷川富三郎との交流は、たすくの芸術観に大きな影響を与えました。特に、河井寛次郎の作品をこよなく愛し、その影響はたすくの織物にも色濃く反映されています。

妻・佐久子との出会いそして「風土」

たすくの妻、佐久子もまた、芸術的な環境の中で育ちました。佐久子の祖父は鳥取藩主席家老の上級家臣であり芸術家でもあり、父は医師でした。佐久子は幼い頃から芸術に親しみ、長谷川富三郎を通じて民藝運動にも関心を抱くようになります。たすくとは、長谷川の紹介によって出会い、1946年に結婚しました。

結婚後、二人は倉吉市に「諸国民芸の店 - 風土」を開業しました。店では、民藝運動の作家たちの作品や地元の芸術家の作品が販売され、たすくはそこで絵付けなども手がけました。この店を通じて、たすくは絣や風通織などの伝統織物にますます興味を持つようになり、織物制作を始めることになります。

忘れられた技法の復活：風通織の解読

倉吉地方では、江戸時代後期から明治にかけて、高度な技術を要する「風通織」が盛んに織られていました。しかし、機械化の波に乗り遅れ、大正時代以降は衰退していき、風通織はほとんど忘れ去られていました。

たすくは、古家の片隅に残されていた貴重な織物の伝書を入手し、試行錯誤を繰り返しながら風通織の解読に挑みました。当時の倉吉には風通織を織れる人はおらず、たすくは各地を巡り、機織りの技術を学びながら、伝書の解読と試織を重ねていきました。沖縄やインドネシア、メキシコなど海外への研究旅行も織物研究の大きな糧となりました。

独自の技法開発と後進の育成

たすくは、風通織の復元だけでなく、独自の技法「たすく織」や「綾綴織」を開発しました。これらは、伝統的な織り方を現代風にアレンジしたもので、着物や帯、ストールなど幅広い用途に使用できる、新しい織物として高く評価されました。

たすくは、中学教師として美術教育にも携わり、多くの生徒に美的感覚を育みました。また、「たすく手織研究所」を開設し、後進の指導にも尽力しました。弟子たちは京阪神などからも集まり、たすくのもとで技術を学びました。

数々の受賞と評価

たすくの作品は、その繊細な美しさや深い情感から高く評価され、新匠工芸会展などで数々の賞を受賞しました。中でも、着物「水面秋色」で受賞した稲垣賞は、新匠工芸会最高の栄誉です。

創作活動とメディアへの露出

たすくは、創作活動に加え、『倉吉地方明治中期 そ志き織と風通織』や『紬と絣の技法入門』などの著書を執筆しました。『紬と絣の技法入門』は、誰でも理解できるよう丁寧に書かれた後進育成のための技法書で、全国の織り手から高い評価を得ました。また、NHKの『新日本紀行』にも出演し、その活動が広く知られることとなりました。

晩年とその後

たすくは1987年、食道癌のため亡くなりました。しかし、彼の残した作品や技術、そして後継者である三男の公之介によって、たすくの織物は現在も受け継がれ、倉吉の伝統として大切にされています。たすくの生涯は、伝統を尊重しながらも常に革新を追求し続けた、真の染織家の生き様を示しています。

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